「彼が鼻水をタラーッと垂らして、それがテーブルに落ちたんです。だから、『風邪ひいたの? 鼻水ふいてよ。おかずに入るじゃない』って言ったんです。そのとき、私が少し顔をしかめたのかもしれません。『お前だって、風邪ひけば鼻水くらい垂らすだろう!』って、ものすごい勢いで怒りだしたんです。箸をバン!とテーブルの上に置いて、そのまま自分の家に帰ってしまった」
ところが、家に帰った則雄から、すぐに謝りの電話がかかってきた。
「ごめん。風邪をひいて体調が悪くてイライラしていた。せっかく夕食を作ってくれたのに悪かったよ。風邪が治ったら埋め合わせするから。何かおいしいものを食べに行こう」
しおらしく謝られると、彼が愛おしくなり、“これからは私も言い方に気をつけよう”と思った。
しかしながら、その後もささいなことで怒りだすことが続いた。則雄の家で豚肉の生姜焼きを作り、キャベツの千切りと合わせてお皿に盛りつけ、食卓に出したときのこと。知恵が生姜焼きばかりを食べていると、「キャベツも食べろよ」と急に語気を荒らげ、食事をするのをやめて別の部屋に行ってしまった。ソファーに並んで座ってテレビを見ていたときのこと。知恵はじゃれあいのつもりで、ふくよかな則雄のお腹の肉をつまみ、「これは、なんだ〜〜」とおどけると、「何するんだよ!」と、その手をパンとはねのけ、驚くほどの大声で怒鳴りだした。
また、コンビニの若い女性店員から不愉快な対応された知恵が、そのことを愚痴ったときのこと。「俺がお前を不愉快にさせたわけじゃないだろう。こっちは疲れてるんだ。くだらない話するな!」とキレて、デートの途中で家に帰ってしまった。
「お前が俺を怒らせているんだ」
則雄はいったん怒りだすと、怒りがどんどん増幅していく。目が据わり、ウーッと歯を食いしばったかと思うと、罵詈雑言を並べたてて喚き散らすという。そして、決まって言う。
「お前が俺を怒らせているんだ。どうしてくれるんだ」
ひどいときは、1時間も2時間も怒り続けるという。
そんな話を聞いて、私は知恵に言った。
「人には“喜怒哀楽”の感情がありますよね。 “怒”の感情をあらわにする人を結婚相手に選ぶと、心が休まることがないですよ」
怒りの沸点が低い人は、ストレスや不満を感じやすい気質だ。自分の考えている筋道があり、そこに横やりが入ると突然怒り出す。つまりはそういう脳の構造なのだ。また、プライドが高く、その裏返しで劣等感も持ち合わせている。ことに男性の場合、恋愛関係において女性よりも優位に立ちたがる。自分の気にさわるようなことを言われると許容できずに、怒りの感情をあらわにするのだ。
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