「真冬の北極圏」を一人で歩くと何が起きるか

暗闇という根源的未知に命を懸けた探検記

極夜の暗闇の中を一人で歩く(写真:rkankaro / iStock)
“人生には勝負を懸けた旅をしなければならない時がある。”

本書『極夜行』は、探検家・角幡唯介が「そのときまでに得られた思考や認識をすべて注ぎ込み、それまでの自分自身を旅というかたちで問う」た大探検記である。

延々と続く暗闇

準備に4年をかけ、4カ月以上の間、真冬の北極圏を一人で歩く探検。それは極夜の暗闇の中である。極夜、聞き慣れない言葉であるが、白夜の逆といえばわかりやすい。太陽が顔を出さない暗闇の中を行こうというのである。

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地味といえば地味である。なにしろ暗闇だ。探検記とはいえ、ビジュアル的に面白くなさそうだ。じつは、本を読む前にはそう思っていた。しかし、読み進めるにつれ、それは、延々と続く暗闇というものをイメージできていなかったがための誤解であったことを思い知らされていく。

角幡によると、未知には表面的未知と根源的未知がある。たとえば現代における未踏峰の登頂は表面的未知だという。登山という行為が確立されたジャンルであること、そして、未踏峰とはいえ、その周辺はすべて既知に取り囲まれていること、がその理由である。確かにそうだ。それに対して、次の理由から、極夜を一人で行くのは根源的な未知であるという。

“その行為をとりまく全体状況そのもの、世界そのものが未知であることをいう。自然環境も状況も方法論も洞察の対象もすべてが開かれていない、その位相空間そのものが未知な場合だ。つまり私たちが普段暮らしているシステムの外側にある世界。”

そのような「人間社会のシステムの外側に出る活動」に自らを置く「勝負を懸けた旅」の全記録である。面白くないはずがない。

GPSを持たずに行くというのも、人間社会のシステムから抜け出るためだ。角幡のナビゲーションシステムは、コンパスと天測-月と星の動き-のみである。正確な天測をおこなうには六分儀が必要で、命綱ともいうべききわめて大事な道具なので、特別に開発してもらって持参した。しかし、なんと、旅の序盤にあった猛烈な嵐で失ってしまう。以後、頼りになるのは地図とコンパス、そして、天体の目測のみである。予定以上に壮絶な状況を余儀なくされたのだ。

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