米朝トップ会談に手ぶらで挑む米国の危険度 このままでは金正恩に出し抜かれる

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また、米国による空爆の脅威も金正恩氏の判断にほとんど影響を与えていない。核関連の攻撃対象としては核弾頭、ミサイル製造施設、ミサイル運搬用トラックの3つがあるが、これらがどこに存在するかを特定し、破壊し尽くす能力は米国にはない。北朝鮮は通常兵器でもかなりの攻撃力を有しており、米国が軍事オプションを行使した場合には2500万人もの犠牲者が出ると推計されている。

この2月に韓国の文大統領は、直接会談に向けた重要な第一歩として「米国は対話へのハードルを下げ、北朝鮮も非核化の意思を示す必要がある」と語っていた。直接交渉が可能になったのは、米国が助言を受け入れ、従来は対話の「前提条件」としてきた非核化を「目標」に切り替えたからだ。

米朝トップ会談をぶち壊すのは簡単

だが、米国が単独で交渉内容に責任を持つような状況を、金正恩氏が信用することはないだろう。どのような合意が交わされるにせよ、北朝鮮はそれに対する中国とロシアからの支持に加え、日本などからの経済・エネルギー支援、国連安全保障理事会による承認を要求してくるはずだ。中国とロシアが米朝トップ会談を歓迎する一方、日本は神経質になっている。

今回の米朝トップ会談を成功させるのは難しい。だが、ぶち壊すのは簡単だ。トランプ氏は無知で、外交経験に乏しく、米国務省の主要ポストにも空席が目立つ。駐韓米大使はいまだ決まらず、ジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表も先日辞任した。十分な事前準備ができなければ、トランプ氏は狡猾(こうかつ)な金正恩氏に出し抜かれかねない。

だが一方で、主義主張にとらわれずにディール(取引)を追い求めるトランプ氏の手法がカギとなる可能性もある。

たとえそれが同氏の思いつきだとしても、即断即決によって突破口が開かれるかもしれない。トランプ氏は、米国の従来の外交方針はおろか、自身の発言すら簡単に翻してきた。取引の内容さえよければ、トランプ氏が飛びつくのを止めるものは何もない。その細々とした一縷(いちる)の望みに、北朝鮮核問題の平和的解決は懸かっている。

ラメッシュ・タクール 元国連事務次長補

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Ramesh Thakur

オーストラリア国立大学教授。同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。国連大学上級副学長などを歴任。

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