「衰退途上国」日本の平成30年史を振り返る

リベラルはなぜ新自由主義改革に賛同したか

佐藤:「アジアは集団主義的なため、自覚的な主体性を持った個人が存在せず、文明として遅れている」という考え方は、ヨーロッパにも日本にも根強くありました。たとえば1950年代、増村保造という映画監督が、「日本映画初の本当の戦後派」として評判になります。しかるに増村さん、イタリアに留学していたこともあって、徹底した西洋至上主義者なんですよ。発言を2つ、ご紹介しましょう。

「ヨーロッパの空気を吸ってみて、はじめて『人間』というものを知ったような気がする。ヒューマニズムの伝統がない日本では、人間とは美しく豊かで力強いものだなどとは、観念的には諒解できても、実感として体得できない」(1958年)

「(映画『卍』で描きたかったのは)アジア的暗黒の滑稽さと、ヨーロッパ的肉体崇拝の明晰さである。(中略)何を言うよりもまず、ギリシア以来の論理と客観性を愛したかったのである」(1964年。表記を一部変更)

これが正しければ、増村保造さんご自身も、日本社会で生きている以上、アジア的暗黒の産物にすぎず、本当のところ「人間」ではありません。しかしまあ、その点は脇に置きましょう。

左派はなぜ新自由主義を受け入れたのか

中野:日本では1990年代以降の経済停滞に対して、本来であれば福祉国家を志向し、新自由主義に対して反発すべきリベラル、左翼までが、逆に新自由主義的改革に賛同してしまうという現象が生じた。この傾向はヨーロッパでも多少みられはしましたが、特に日本の新自由主義において顕著な特徴ではないかと思います。

柴山 桂太(しばやま けいた)/京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。1974年、東京都生まれ。主な著書にグローバル化の終焉を予見した『静かなる大恐慌』(集英社新書)、エマニュエル・トッドらとの共著『グローバリズムが世界を滅ぼす』(文春新書)など多数(撮影:佐藤 雄治)

柴山:おっしゃるとおり、反対どころか完全に補完勢力になっていましたね。

中野:左翼がなぜ政府内の改革派の補完勢力となり、新自由主義的改革に賛成したのか。私の解釈は、それは新自由主義が左翼の好きな、「日本的なるもの、すなわち集団主義の破壊」であるから、というものです。

佐藤:日本の野党は伝統的に「小さな政府」志向です。明治政府は富国強兵を国家目標に掲げましたが、政府主導で産業化や軍事力の整備を進めるとなると、国民の税負担が重くなりやすい。これに対して野党は、帝国議会が開かれるようになった直後から、「政費節減・民力休養」を公約に掲げて反対しました。歳出カットによってプライマリーバランスを改善し、減税をやれという話です。

戦後になっても、たとえば1965年に佐藤栄作内閣が初の赤字国債を出したとき、野党第一党だった社会党(現・社民党)は「赤字国債は戦争への道」と反対しています。いわゆる「昭和の戦争」の際、政府は国債を大量に発行しましたが、その経験がトラウマになったのか、「政府負債の増加=戦争(準備)」と決めてかかっているんですね。佐藤内閣にしてみれば、1964年の東京オリンピックが終わった反動で生じた不況を、何とかしたかっただけなんですが。

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