「衰退途上国」日本の平成30年史を振り返る リベラルはなぜ新自由主義改革に賛同したか

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佐藤:有名なマルクス経済学者の大内兵衛さんまで、「この不況は、放っておいたほうが資本主義は健全になる」という旨の発言をし、赤字国債発行絶対反対を表明されたとのこと。どうも日本では、マルクス経済学すら市場原理主義に通じているらしい。これぞ「マルゆう」、マル経が言うな(笑)。

戦後日本で左翼とか革新とか言われた人たちにとって、国家とは「悪しき権力」であり、抗議・抵抗・打倒の対象でした。それに対して保守がナショナリズムを唱え、日本的なるものを擁護する、この図式が長らく存在していたわけです。ところが平成に入ったら保守の側が「これからは新自由主義とグローバリズムだ。国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去った!」と、ナショナリズムをぶん投げるようなことを言い出した。

おまけに左翼はずっと、国連中心主義的なコスモポリタニズムという形で、政治主導型のグローバリズムを唱えてきています。保守のグローバリズムは経済主導型なので、そこはちょっと違うんですが、「日本(あるいは国家)の否定」に関しては変わらない。

左翼が新自由主義的改革に抵抗できないのも、そう考えれば当然の帰結でしょう。ただし見方を変えれば、これは保守が「左傾化」し、国家否定で相手側と足並みをそろえたということでもある。昨今の日本が本当に「保守化」「右傾化」しているかは、率直に言って疑わしいのです。

ストーリーとしての「1940年体制論」

柴山:左派が新自由主義を受け入れるにあたっては、野口悠紀雄氏が唱えた「1940年体制」という概念の存在が大きかったと感じます。あれは1995年に発表されていますね。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院准教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士課程(M.Phil)修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)など(写真:施 光恒)

:野口氏の1940年体制論では、「いわゆる日本型経営と言われるもの、それは実は戦争準備のために作られた統制経済の延長であった」というとらえ方をしていました。その後、「総力戦体制論」といった議論が出てきて、「日本型経営などこれまでの経済成長を導いてきた日本的な特色は軍国主義につながる集団主義であり、前近代的な体制である」と色付けされてしまった。

確かにそれにより、本来であれば新自由主義に対抗すべき左派の人たちが立場を変えてしまった印象があります。左派が、新自由主義の側に立ち、日本型経営や日本型資本主義を集団主義的経済システムだとしてたたき始めたんですね。

中野:1990年代後半から不況が深刻化すると、右も左も1940年体制論に飛びついた。それは野口氏の1940年体制論が、明治以来ずっと日本人を支配してきたストーリーに見事に合致していたからでしょう。

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