「衰退途上国」日本の平成30年史を振り返る

リベラルはなぜ新自由主義改革に賛同したか

佐藤:のみならず、アメリカにおける保守主義は「反政府・反国家」の側面まで持っている。あの国で銃規制が進まないのも、根底にはこれがあります。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家、作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』(1989年)で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞。『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋、1992年)以来、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。主な著書に『未来喪失』(東洋経済経済新報社)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『震災ゴジラ! 戦後は破局へと回帰する』(VNC)、『右の売国、左の亡国』(アスペクト)など(写真:佐藤 健志)

身の安全を政府に頼ってばかりいると、権力による抑圧に抵抗できず、自由が失われるおそれがある。だから独立の理念たる自由を守るためにも武装せよ、という次第。実際、「Free Men Bear Arms」(自由は武器を持ってこそ)なんてスローガンまであるくらいです。

日本は刀狩りに始まり、明治初期の廃刀令、敗戦直後の銃砲等所持禁止令(現・銃砲刀剣類所持等取締法)など、一般の人々の武装を規制してきた歴史がありますから、新自由主義者といえども武装の自由までは主張しません。

とはいえ問題は、「反政府・反国家」の発想自体は、いわゆる戦後民主主義の理念とも相性がよく、ゆえにわが国で受け入れられやすいこと。こうしてアメリカにかぶれた改革主義型の保守勢力は、愛国心やナショナリズムの必要性をうたいつつ、個人主義を前面に出して、日本的なるものを否定せよと主張することになった。

集団主義の否定と個人主義への思いこみ

中野:新自由主義と一口で言っても、実はヨーロッパとアメリカで違う。むしろ国ごとに、その国なりの新自由主義の文脈があるという気がします。アメリカ的新自由主義、イギリス的新自由主義、いろいろあると思うのですが、その中で、1990年代以降の日本的新自由主義は「日本的なるものの否定」という意味合いが強かった。

:そうなると「では日本的なるものとは何か」という議論になってきますね。

中野:それについて私の考えを言わせてもらうと、多くの人の頭の中にある「日本的なるもの」とは「日本は集団主義の国である」というものだったと感じます。集団主義の日本と対峙するのがアメリカ的な個人主義であり、つまり日本的新自由主義とは個人主義を意味していた。

:「新たなイノベーションのために、日本にも個人主義が必要である。自律的個人からなる社会へと日本を改革していかなければならない」という主張は今でもしばしば目にします。

柴山:個人主義に対する偏った思い込みがあるように思います。「個人主義だからイノベーションが起こり、経済が成長する」というのは本当なのか。

この発想のルーツはたぶん、ミルトン・フリードマンでしょう。フリードマンは『資本主義と自由』の中で、「ヨーロッパが世界に先駆けて発展できたのは、個人主義があったからだ」という主張をしています。(レオナルド・)ダ・ヴィンチにせよ誰にせよ、ヨーロッパの偉人たちはみな個の自由を追求し、その上に偉大な文化を作り上げた。アジアにはそれがなかったという趣旨のことを述べています。

しかし現実はそう単純ではない。個人主義があったから文明が発展したわけではなくて、経済が発展したから個人主義的な文化が花開いたんです。豊かになると意識が変化して、「自分は個人としての自由を持っている」という観念が出てきますから。

では発展は何によって起きたのかと考えると、実際は多くの要因があったわけです。最近の経済史研究では、ヨーロッパの経済発展を地理的な要因や近代国家形成の観点から説明するものが増えている。文化の面でもイスラーム圏からの影響など、さまざまな条件が重なって発展が起きたのであって、「個人主義的な思想や体制があれば経済が発展する」というほど単純ではないんです。

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