ロヒンギャ難民キャンプで会ったドラえもん 過酷な環境に暮らす子どもたちの今

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さて、ミャンマー、バングラデシュ両政府の合意に基づき、1月下旬にも始まるはずだった帰還プロセスは少しも動かず、ミャンマー側はこの間にラカイン州の“犯行現場”の村々をブルドーザーで一掃する暴挙に出た。真相究明と帰還は遠のくばかりで、問題の長期化は必至である。

国連とバングラデシュ政府は、食糧配給や教育分野など今年3~12月の10カ月間で総額9億5000万ドル(約1015億円)に上る支援計画をまとめた。現地は4月下旬にも雨季に入り、続くモンスーンの季節を通じて例年10月頃まで降水量が増大する。丘陵地帯を切り刻んで造成した難民キャンプでは、斜面に建てたテントが土砂崩れで押し流されたり、低地が水没したりする甚大な被害が予想される。

キャンプの土砂崩れなどを警戒

少しでも安全な居住環境を確保すべく、大規模なキャンプ拡張が急ピッチで進んでいるが、難民問題に自然災害が追い打ちをかける複合的な人道危機に発展する可能性が高い。加えて医療関係者は、昨年は奇跡的に発生しなかったコレラ、チフスなどの集団感染を警戒する。

そんな大人の心配をよそに、子どもたちは通りすがりの私たち外国人に向かって「サラーム!」「How are you ?」と元気にあいさつするなど、極めて逆説的ではあるが、ずっとミャンマーの辺地にいては死ぬまで知り得なかっただろう“外に向かって開いた世界”に生きている。

だからといって「じゃあ、かえって良かったじゃないの」「支援なんかする必要ないでしょ?」という話には、まったくならない。

おじいさんに抱かれた赤ん坊(筆者撮影)

ロヒンギャは本来の居場所を根こそぎ破壊され、圧倒的暴力で追い立てられ、民族の尊厳を踏みにじられて、今こうして難民キャンプにいる。人道的な観点から手を差し伸べるのは当然のこととして、仮に適切な保護や教育を受けられないまま、子どもたちが理不尽な状況で成長せざるをえなかったとすれば、それこそイスラム過激思想に走る若い世代が出現しないとも限らない。それは日本の国益としてもよろしくない。

難民キャンプの子どもたちを見ていると、その民族あるいは国家にとって「子どもこそ未来」という、はなはだ陳腐な物言いではあるが、普段はあまり意識しない真理を実感する。明るい展望が見通せない状況だからこそ、とりわけそう思えるのかもしれない。

中坪 央暁 ジャーナリスト

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なかつぼ ひろあき / Hiroaki Nakatsubo

毎日新聞ジャカルタ特派員、編集デスクを経て、国際協力分野の専門ジャーナリストとして南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島、ミャンマーのロヒンギャ問題など紛争・難民・平和構築の現地取材を続ける。このほか東ティモール独立、インドネシア・アチェ紛争、アフガニスタン紛争などをカバーし、オーストラリアの先住民アボリジニの村で暮らした経験もある。新聞や月刊総合誌、経済専門誌など執筆多数。

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