「高等教育無償化」が招く最大の弊害は何か 大学独自の奨学金を充実させたほうがいい

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もし、今後「高等教育無償化」が進展すれば、これらの奨学金制度は縮小され、大学経営の面ではプラス要素になるだろう。しかし、多くの大学や専門学校の入試が選抜機能を果たしていない今、家庭の所得に制限をつけるにせよ、本人が行きたいと思えばどんな高校生活を過ごしていても進学できるということになれば、高校現場は混乱するだろう。

最も多くの学生が利用している日本学生支援機構によれば、2015年度は大学・短大の学生の38.5%が同機構の奨学金を利用しているそうだ。そして、教育関係者には周知の事実だが、利用率と大学入試時の偏差値には相関関係がある。

教育社会学者の舞田敏彦氏は、学生支援機構の2015年のデータから「大学タイプ別の奨学金利用率」を分析している(同氏ブログ「データえっせい」2017年4月21日「大学タイプ別の奨学金利用率・延滞率」)。詳細は省くが、公立大学の利用率が高く、私立大学では偏差値49以下の大学での貸与率が高いという分析結果が出されている。

学生のさらなる学習離れを招く可能性

一方で、筆者は奨学金利用者が多い大学で教鞭を執っているが、奨学金が学生生活を大きく崩さないための歯止めになっていることを感じる。学生支援機構の奨学金の場合には毎年学校による適格審査の手続きがある。学校や企業が出している奨学金の場合も、同様の審査があり、その際面接を課す制度もある。

そこで、学生たちは、「奨学金を打ち切られないように一定以上の成績を取りたい」「留年しないように単位を取りたい」という思いを持つようになり、これがアルバイトや交友関係だけの大学生活に流れないためのインセンティブになっている。もし、高等教育が原則無償化になれば、この重しが外れ、学生のさらなる学習離れを招くことにもなりかねない。

「高等教育無償化」は、確かに本来望ましい制度ではある。しかしながら、高等教育を受ける資質が、入学時までに涵養されていない者が進学することは、高等教育の質保証をさらに難しくさせることは明らかだろう。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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