グローバル化と民主主義の両立は可能なのか

自由化・国際ルールと「有権者の意思」

米国大統領選挙の結果や英国の国民投票の結果を、不幸なめぐりあわせで起きた事故のようなものと考えるのは間違いで、もっと重く受け止めるべきではないだろうか。トランプ大統領の政策運営ははたから見ていると極めて危うく見え、また、英国のEU離脱も非現実的で、どちらも有権者は短期間で幻想を捨て去るだろうと考えられていた。しかし、我々が目にする米国のマスコミの激しい攻撃にも関わらず、トランプ大統領を強く支持し続ける人々は少なくないし、無理解や無知だけから支持を続けているわけではなさそうだ。

英国民がEU離脱を選択したり、グローバル化に逆行するような政策を掲げたトランプ大統領が誕生したりしたのは、経済学者・エコノミストが唱えてきた、グローバル化すれば皆がより豊かになれるという説明に、多くの有権者が納得していないということだろう。グローバル化を推し進めてきたのは、市場原理主義者や保守派だけでなく、リベラルと考えられる経済学者やエコノミストも同じである。ワシントンコンセンサスと呼ばれる主流派の処方箋は、多くの有権者が望んでいる生活の安定を提供できなかったことが、ポピュリズムの台頭の一因であることは否定できない。

市場競争を重視して、政府の介入を否定しすぎた

分業は経済発展の原動力の一つだ。経済学の祖ともいわれるアダム・スミスが、有名な国富論を分業の話で始めており、ピンの製造を例に分業の意義を説明したのはよく知られている。工場内の分業のスケールを大きくして、国家間で分業をすれば全体の効率がよくなり、それぞれの国が利益を受ける。デヴィッド・リカードが考え出した比較優位の概念によって、貿易を行うことで生産性の高い国だけではなく生産性の低い国も全ての国がより豊かになるということが説明され、国際貿易の最も基本的な理論となっている。

経済のグローバル化が進めば誰もがトクをするはずなのだが、現実はそう単純ではない。経済のグローバル化の下で、海外市場へ進出するなどで大きな利益を得る人がいる一方で、海外の企業との競争が激しくなり、所得水準が低下したり、失業したりする人が出てくる。後者であっても成長産業に吸収されていくことで、より高い生活水準を実現できるはずだというのが、比較優位の考え方の含意だ。しかし、産業構造の変化や就業者の移動は瞬時に起こるわけではなく、時間もかかるしコストもかかる。

社会の変化が緩やかだった時代には、単純化すれば、子どもが親とは違う仕事をするという形で、緩やかに産業構造の転換が進んだ。所得の低下を経験することはあっても、多くの人が失業を経験せずに経済はゆっくり変わっていき、社会的なコストはそれほど大きくはなかった。一流企業で出世して豊かな生活を送るとまではいかなくても、まじめに働けばそれなりの生活を実現でき、少なくとも家族を路頭に迷わせる心配はないと多くの人が信じることができた。

しかし、経済の変化が激しくなる中で、優良企業でも短期間のうちに経営が悪化して、大規模なリストラを行わざるをえなくなるということも増えた。人々はグローバル化で経済成長が高まり豊かになることを期待したが、実際には多くの人は経済成長の成果を手に入れることはできず、職や生活の不安定化だけが残ってしまった。グローバル化を進めるためには、そのマイナス面への対応も十分行う必要があった。

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