性暴力を軽視する空気の耐えられない「軽さ」 被害者に対して、個人と企業ができること

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――SNS上で“#Me Too”と記すことで、性暴力被害を訴える人が増えています。一方で、被害経験を告発した人が批判されることも少なくありません。

性暴力被害者支援に取り組むNPOしあわせなみだ代表・中野宏美さん(写真:中野さん提供)

性暴力の経験を告白することで、今の社会が持つ、性暴力への誤解や偏見にさらされることもあります。その中で、「#Me Too」と声を上げる選択は、称賛され、尊重されるべきものです。

被害経験の告白を批判する人には2種類いると思います。加害者的立場の人と被害者的立場の人です。

前者は「自分は加害的な行為を当たり前のようにやってきた、相手はそれを受け入れるのが当然だった、だからあなたも黙っているのが処世術だよ」と考える。そして後者は「私はそうした行為を(歯を食いしばって)受け入れてきたんだから、あなたも我慢しなさい」と言いたくなる。

被害者批判の背景には、これまで、とりわけ女性は、膝を触られたり、キスをされたりすることを、どんなに不快に感じても、それを受け入れなければ、社会や組織を生き抜くことが出来なかった事実があります。

本当は、セクハラに関する相談は少なくありません。2016年度に雇用環境・均等部(室)に寄せられた男女雇用機会均等法に関する相談は2万1050 件で、相談内容は「セクシュアルハラスメント」が最も多く7526件(35.8%)です。

しかも、これは、被害の一部でしかありません。昨年、連合が行った調査ではセクハラなどの被害を受けても「誰にも相談しなかった」人が4割に上ります。また、相談した場合も半数近くが「親身に聞いてもらえたが、具体的な対応に進まなかった」となっています。

今でも、性的な発言を笑いに変えたり、触られたら軽くあしらったりすることで、「できる女」とみなされる風潮があります。指摘すれば、「騒ぐほどのことではない」と、逆に批判されることすらあります。また男性の間では、性交渉の人数や内容が「勲章」のように語られることもあります。それだけセクハラ的な要素が社会に蔓延している、ということです。

「性暴力」の定義

――セクハラ、性被害、痴漢などさまざまな言葉を聞きます。中野さんが撲滅のため活動されている「性暴力」の定義があれば教えてください。

「性暴力」は法律上の言葉ではありません。セクハラは男女雇用機会均等法、性的虐待は虐待防止法、痴漢は迷惑防止条例といったように、それぞれ個別の法律や条例によって定義されています。

しあわせなみだでは、これらを包括して、性暴力を「本人が望まなかった性的なできごと」と定義しています。

行為の内容としては、強制性交、強制わいせつ、のぞき、ストーカー、盗撮、わいせつ物頒布、下着泥棒、買春、児童ポルノ製造、公然わいせつ、人身取引、JKビジネス、AV出演強要、DV、デートDV、いじめ、ポルノを見せる、避妊に協力しない、中絶の強要、戦時性暴力などが考えられます。

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