性暴力を軽視する空気の耐えられない「軽さ」 被害者に対して、個人と企業ができること

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中には、日常用語では「暴力」と呼ばれない行為もあると思います。たとえば、職場における性的嫌がらせについては、それが身体的なものではなく言葉によるものである場合は「暴力」ではないのでは、と思われるかもしれません。

しかし、被害者の心身に大きな悪影響をもたらします。性的な自己決定権を侵害されることによる被害は、一般的に考えられているより深刻で大きなものなのです。

被害相談を受けたらどうすればいいのか

――わかります。かつて取材した事例に、セクハラ被害を訴えた女性社員に対し、雇用主が適切な対応を取らなかったものがありました。その女性は、車の中で取引先から性交渉を迫られ、何とか逃げられたものの、相談をした勤務先の対応が曖昧で不信感を抱き、出社できなくなりました。被害者は恐怖を感じて日常生活にも支障が出ているのに、相談を受けた側の認識が甘いことがあるのだな、と思いました。もし、友人から被害相談を受けた時は、どうしたらいいでしょうか。

あなたの大切な人が性暴力に遭ったら、迅速に適切な支援機関を紹介して欲しいです。今、日本全国で、性暴力被害者ワンストップ支援センターの開設が進められていて、2017年11月1日時点で41都道府県に41カ所あります。ここでは、レイプ等、身体への直接的な被害に加え、いわゆるセクシュアルハラスメントも相談ができます。

早期に支援につながった人ほど、回復が早いことも、明らかになっています。小西聖子氏らが行った研究「犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究」(2008年)によれば、日本では犯罪被害者への支援体制が整っておらず、被害後必要なケアを受けられていない人が大半です。調査対象者は被害から平均8年経過しているにもかかわらず、約40%がうつ病および不安障害のハイリスク群だったそうですが、研究で実施した治療を受けた患者には、症状の改善が見られたそうです。

暴力被害が多いアメリカでは、対策のほうも進んでいます。アメリカ合衆国司法省司法プログラム局犯罪被害者対策室が作成した『アドボケイト・カウンセラー トレーニング マニュアル』には、「危機介入は、できるだけ早い時期、被害から数時間以内に始めるのが望ましい」とされています。

また、相談を受けたほうが「なぜ自分に相談したのか」悩む人も多いと聞きます。それはあなたが被害者から信頼されているからです。そして、優しい人ほど「何かしなければ」と焦ってさまざまな行動を取ろうとします。しかし性暴力後の人生を生きるのは被害者本人であり、誰も代わることはできません。

被害者の多くは、被害後、心身にさまざまな変化が起こり、被害前と異なる環境や生活を送ることになります。内閣府の「男女間における暴力に関する調査(2014年度調査)」によると、異性から無理やりに性交された被害後、生活上の変化があった方が59.8%に上ります。「心身に不調をきたした」「自分が価値のない存在になったと感じた」「異性と会うのが怖くなった」という声が寄せられています。そんな中で、被害の事実を知ったうえで、これまでと変わらず接してくれる人がいることが、支えになります。

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