「脳の記憶補助装置」が人の生き方を変える ナレッジスイート社長ロングインタビュー
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):中小企業向けのCRMマーケットがブルーオーシャンである一番の要因は、顧客開拓が大変だ、といった理由なんでしょうか?
稲葉:違います。以前は中小企業マーケットに大きな会社がパッケージを売るために参入してきましたが、パッケージは初期費用が何百万円、あるいは何千万円もかかります。僕らはクラウドコンピューティングによって、利用ユーザー数無制限で利用できる低価格なビジネスモデルで参入したということですね。既存事業者は中小企業へのアプローチの仕方がわかっていないんです。だから入ってくることができない。また中小企業の業務フローやキャッシュフローをわかっていません。
逆にベンチャーで3~5名でSFA(営業支援システム)を作っているような会社もあるんですが、立ち上がるまでは相当きついということを、僕は経験上知っています。彼らがどこまで耐えられるかという思いで見ていますし、どこかで支援したいとも思っています。
小林:御社は、立ち上げのハードな時期をくぐり抜けており、一方で大企業がこの事業領域に参入するのは難しい、ということなんですね。
稲葉:絶対できないでしょうね。たとえば、大企業向けのERP(統合業務パッケージ)の機能はそのままで、価格を弊社製品と同じに設定して中小企業向けのマーケットに参入してきたところで、中小企業ではそのリッチな機能を使いこなせないんですよ。中小企業は「何でもできるすごい機能」が欲しいのではなく「ニーズを満たす機能」が欲しいだけなんです。 僕らの強みは、毎月、何百、何千という利用者の声が届くことです。一番ニーズの高いところを作り変えていけば顧客満足度が上がるんです。これを繰り返してるだけなんです。
ノンポリシーがポリシー
村上:御社は、今はSaaS型のビジネスを展開してらっしゃいますが、今後、ユーザー企業のビジネスの履歴がデータとしてどんどん溜まってくると思います。クラウドを脳の記憶補助装置と位置付けていらっしゃいますが、次に狙われる新規事業の構想などがあれば、お聞かせください。
稲葉:僕らはノンポリシーをポリシーとしているので、具体的に「これ」というものはありません。 これは僕らの1つのルールでもあるのですが、開発ポリシーやサービスの方向性、ビジョンや展望を聞かれたとき、いつも「ノンポリシーです」と答えているんですよ。今後のことは良くも悪くもお客様の声で決まっていくので、僕らのポリシーや展望というものはないんです。