でもまあ次々と愛人を作っては結婚して、あっちこっち通い詰めていたということはどうも本当らしい。その愛人の1人が、近江である。それまでは怒りを炸裂し、その気持ちを和歌に載せて「挑戦状」をたたきつけていたみっちゃんだが、ここでは「家出して尼になろうかしら」と少し弱気……。
結婚生活の間には、どんなことがあっても必ずお正月には現れていた兼家だが、今回は新しい恋人にゾッコンでついに姿を見せていない。新年の宴会から帰ってくる牛車が家の前を通るが、止まる人がいない。今か今かと心を躍らせている侍女たち、みっちゃんの顔色をうかがいながらなんとか励まそうとしているが、その努力は無駄に終わる。
過ぎゆく車の音に期待する悲しすぎる女心
あくる日まだつとめて、なほもあらで文見ゆ。返りごとせず。
次の日は立派な宴会があって騒がしい。わが家から大変近いところで開催されていたので、あの人はいくら何でも今夜こそは顔を出すに違いない、と内心期待もしていたわ。車が通る音が聞こえてくるたびにドキドキする。夜がかなり更けたところ、招かれた客が少しずつ帰っていく音が聞こえる。わが家の門の前を通って、次々と去っていくのを聞いて、ああ一台過ぎた、もう一台過ぎた、と感情が高ぶり、胸がうずく。最後の車が通り過ぎて行った音が遠くなって消えていくと、私はもう唖然として、頭が空っぽになった。
ひたすら待ってしまう長い夜。闇の中で耳を澄ませて、すべての音が気になって、あの人の気配を探る。通り過ぎていく車の音で落胆して、また体が緊張する。相手が来るかもと思って、髪の毛をセットして、着物を慎重に選ぶ。浮かれまいと思って自分を抑えようとも、胸が期待で膨らみ、そして裏切られる……。悲しみは決して癒えることはない。
そんなみっちゃん、ついにラスボスとの対決を迎える。
対決その4、ラスボス兼家
耐えきれず家を飛び出したみっちゃんは鳴滝の般若寺に籠る。『蜻蛉日記』のハイライトとも言われている「鳴滝ごもり」というエピソードの始まりだ。みっちゃんはかなりまじめにその当時の出来事を振り返り、やり取りを正確に再現しているので、こちらも真剣に読もうとするが、何もかもが滑稽すぎる。
妻がいきなり寺に籠ってしまったので世間体が悪いと思って、兼家がすかさず駆けつける。しかし、物忌み中で、車から降りられず直接説得できない。そこで、2人の間の連絡係に起用されたのはなんと、母親についてきた幼い道綱だ。
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