仕事を「爆速で終える人」は何をしているのか 「ちょっとだけやってみる」で劇的に速くなる

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このように、高速ランナーは、何も考えずに力任せに走っていたわけではなく、用意周到な準備をしていたのです。わずか1時間程度の「ちょっとだけ」によりエンジンをかけた状態にしておくことが、その何十倍、何百倍もの効果を生むわけです。

特に「④情報への受信感度が高まる」というのは、心理学的には「ツァイガルニク効果」と呼ばれています。人は完了したことよりも、中断したことに対してより強い興味と記憶を持つという心理現象です。

テレビ番組では、「えっ、どうなるの!?」という大事な局面に差しかかったところで、判で押したようにCMが入ります。これは、情報を中断させることよって視聴者により一層の興味を抱かせる「ツァイガルニク効果」を狙ったものです。仕事も、ちょっとだけやってみて中断することで、脳がその内容に関して興味を持ち始めるのです。

伊東さんに教えてもらった「ちょっとだけ」を実践してみると、確かにその案件に対する受信感度が格段に高まります。別の仕事でネット検索をしているときでも関連情報がセンサーに引っかかるため、とりあえずコピーをとったりファイルに保存したりすることができるようになります。新しい仕事に取り掛かったときに一から情報収集するよりは、はるかに効果的な仕事の進め方であることを実感しました。

束縛ルールではなく「仕事の質」を変える

日本企業の中には、仕事の量や締め切りがそのままであるにもかかわらず、「とにかく早く退社しろ」という問答無用の圧力に対して、「時短疲れ」を起こし始めている職場も少なくありません。

効率化と称して、かえって手間のかかる過剰な情報共有ルールを設けたり、直接話したほうが早いという理由で同一部門内のメールを禁止したりするような企業もあります。

しかし、このような効率化の議論では、どれだけ懸命に頑張っても限界があります。しかも、○○禁止、必ず○○などの「束縛ルール」でがんじがらめにされた職場では、社員は精神的なストレスによって柔軟で自由な発想ができなくなり、仕事にマイナスの影響が出かねません。

そのツケが回ってきた管理職が苦悶の表情を浮かべながらドタバタしたりしていると、「だから管理職にはなりたくない」という部下の冷めた視線を浴びることにもなります。

そうならないためにも、時間短縮を目的とした細かい効率化の議論だけでなく、「決めて実行する」という基本的な仕事の流れを、いかに迅速かつ効果的に行うかということ、すなわち「仕事の質」を高めることを強く意識すべきです。

今回紹介した「ちょっとだけ」は、事前の工夫によって、その後の仕事により効果的に取り組めるようにするといった、仕事の質を変えることの一例です。このように、さまざまな局面で仕事の仕方を工夫することで、限られた時間で求められる成果を出していくことは可能です。仕事がスムーズに進むため労働時間も短縮され、仕事の生産性も高まります。

櫻田 毅 人材活性ビジネスコーチ

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さくらだ たけし / Takeshi Sakurada

アークス&コーチング代表。九州大学大学院工学研究科修了後、三井造船で深海調査船の開発に従事。日興證券(当時)での投資開発課長、投資技術研究室長などを経て、米系資産運用会社ラッセル・インベストメントで資産運用コンサルティング部長。その後、執行役COO(最高執行責任者)として米国人CEO(最高経営責任者)と共に経営に携わる。2010年に独立後、研修や講演などを通じて年間約1500人のビジネスパーソンの成長支援に関わる。近著に『管理職1年目の教科書』(東洋経済新報社)がある。

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