陸自の攻撃ヘリ部隊は、すでに瓦解している 墜落事故を機に長年の課題に向き合うべきだ

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これらの事実をみれば、陸自のヘリの調達と運用がいかに大きな問題を抱えているかがわかるだろう。まず実質戦力とは言えない状態のままにするのであれば、攻撃ヘリは不要だ。AH-64DやAH-1Sは即座に廃棄して部隊を解散し、隊員をほかの任務に回したほうがいい。浮いた費用はネットワークの充実やサイバー戦機能の向上などに振り向ければ、よほど国防に資する。偵察ヘリも、調達・運用コストが安く信頼性の高い機体に更新すればいい。

実際のところ、陸自の航空隊に予算の余裕はない。ティルトローター機であるMV-22オスプレイが陸自に17機配備されるが、その調達費用3600億円はおおむね陸自のヘリ調達予算の10~12年分である。オスプレイ1機の整備費は年間約10億円といわれており、17機ならば170億円だ。対して陸自のヘリの整備予算は年間220億円程度にすぎない。オスプレイがそろえばその3分の2を食うことになる。そうなればただでさえ不足している維持整備費は逼迫を免れない。

現状を放置するならば整備予算不足のために、墜落事故が多発する可能性が極めて高い。

では、どうすればいいか?

筆者は、攻撃ヘリが必要なのであれば、現在のAH-64DをE型にアップグレードし、さらに1個飛行隊と予備機を合わせ、現存12機に新たに18機ほど加えて30機程度の体制とするのが現実的な選択だと考える。

こうすれば、既存のアパッチの機体とインフラを生かせる。追加の機体は国内メーカーによるライセンス生産でなく、コストが安く早期に調達が完了する輸入で調達するべきだ。輸入であれば調達単価は80億円程度で、スバルの生産ラインを復活させて国産化するよりも半額程度で済みそうだ。この2個飛行隊を陸自のネットワークの基幹とし、空海自、米軍との共同作戦能力を獲得するべきだろう。

現在の陸自の予算では元の計画の62機の調達は不可能だ。数が足りないのであれば、武装型の軽汎用ヘリ、無人攻撃機、あるいはターボプロップエンジンのCOIN機(軽攻撃機の一種)など、より安価なシステムを組み合わせるという発想もある。COIN機であればAH-64E2機分の値段で1個飛行隊と予備機をそろえることができる。維持整備費も1ケタ安い。米空軍では、ゲリラ部隊と戦うような非対称戦においてはCOIN機を使用する「OA-X」という計画を進めている。

そもそも攻撃ヘリにどのような任務を与えるのか、またその任務をほかのプラットフォームで代用できないか、という点も検討するべきだ。

陸自はメンツに固執することをやめて現実を直視すべきだ。その上でスクラップ&ビルドを行い、現実的かつリーズナブルな航空兵力を整えればいい。そうでなければ抑止力にも戦力にならない部隊に無駄な税金を使い続けることになる。さらに、整備費不足の無理がたたり、今回のような墜落事故が多発する事態にもなりかねないのである。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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