海自ヘリ問題、諸悪の根源は「現場の暴走」だ 訓戒処分を受けたが、海幕長の判断は正しい

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輸送・掃海ヘリのMCH-101(写真 :LEON / PIXTA)

【お詫びと訂正(2月10日12時15分追記)】

記事初出時(2ページ目最終段落)に「その課長級会議では、内局からSH-60Kの採用を強く擁護する意見が出た。その中心人物は自衛隊の装備調達に極めて大きな影響力を持つ、当時の中嶋浩一郎防衛計画課長(現沖縄防衛局長)だといわれている」との記述がありましたが、中嶋氏の当時の役職は文書課長で、当会議には参加しておりません。当該箇所を削除するとともに関連する記述内容も訂正いたします。取材・編集過程における事実確認不足を反省し、今後の再発防止に努めるようにいたします。
 

海上自衛隊のUH-X(次期多用途ヘリコプター)の機種選定をめぐって、海上自衛隊のトップである武居智久海上幕僚長(当時)が訓戒処分を受けた。昨年12月16日のことである。処分の理由は、内部手続きの規定を超え、部下に対して特定の機種に誘導する不当な圧力を加えたからだとされている。

2018年度までに9機のヘリを調達予定(合計15機)だったが、選定作業に疑義が生じたことから、2016年度は予算計上を断念。来年度の要求も困難な状態となっている。

外形上は確かに、海幕長が不当な圧力を掛けたと断じることはできるし、本人もそれについて認めている。しかし、結論からいえば、この件で海幕長が行ったことは不当な圧力どころか当然のものだ。そもそも原因は海自の最高意思決定会議である海上自衛隊会議が決定した内容を、調達現場が変更したことにある。海幕長は、それを是正しようとしただけだ。ところが内局もこの「下克上」を支持し、防衛監察本部から指弾された。そして、その監察の結果に事務次官も防衛大臣も異議を唱えなかった。これは文民統制上、大きな問題である。

本来であればMCH-101の一択

問題の経緯をトレースしていこう。UH-Xは、事実上のヘリ空母であるDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)に主に搭載される。補給艦から護衛艦などへの物資の運搬、護衛艦が沈没、あるいは哨戒機が墜落したときの救難などの任務を想定している。任務の性質上、大きなペイロード(搭載量)が要求される。ヘリの場合、機内に搭載するだけではなく、機体下部に貨物を懸吊(けんちょう)して輸送するが、その能力が大きいに越したことはない。

UH-X選定に先立って2011年度に開催された海上自衛隊会議において、候補機は大型で、できれば既存機との共用を考慮するという方向性が確認されていた。この会議は海上自衛隊の直轄部隊の長が集まる最高意思決定機関。であれば該当するのは輸送・掃海ヘリMCH-101の一択である。だが、その後の機種選定の過程では、MCH-101だけでなく、三菱重工が製造している対潜哨戒ヘリSH-60Kの改良型、エアバスヘリNH90の3機種が候補とされた。この段階で海幕の検討チームが強引にSH-60Kをベースにした新型機に有利な条件を入れようとした。それに対して武居海幕長は海上自衛隊会議の決定を尊重せよ、と異議を唱えた。そして、これが不当な圧力と見なされたのである。

まず候補として上がった3機種を見てみよう。

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