「99.9」「BG」高視聴率が暗示するテレビの危機 「逃げ恥」「半沢直樹」「ミタ」とは真逆の作風

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もし各局が今後も視聴率獲得のために、リアルタイム視聴させるための番組作りを進めたら、録画視聴派やネット視聴派らのテレビ離れは進み、ビジネスは縮小していくでしょう。そのときテレビは、「ニュースやスポーツなどの速報性が重要な番組を見るもの」になるか、あるいは「ネット動画を見るためのスクリーン」になり下がりかねないのです。

ネットが「高視聴率=正義、低視聴率=悪」に加担

民放各局のテレビ放送が営利事業である以上、ビジネスとして数字を追い求めるのは当然。しかし、視聴率のような前時代的な指標を押し通すような戦略は、顧客である視聴者を「リアルタイムで見る人」に絞っていることになり、自らビジネスをスケールダウンさせていることになります。

すでに「僕はリアルタイムで見られないから、ドラマはすべて録画で見る」「私はリアルタイムで見る気はないから、地上波のドラマではなく、ネットドラマを見る」という人は決して少なくありません。テレビ局が仕掛けたのではなく、視聴者自ら「リアルタイム視聴派」「録画視聴派」「ネット視聴派」「映画や動画など他のコンテンツ代替派」などへのセグメントを進めているのです。視聴者のセグメントは細分化する一方だけに、このままテレビは、ごく一部の人に向けたビジネスになってしまうのでしょうか。

もし「99.9」「BG」「アンナチュラル」など1話完結の事件・問題解決ドラマが、最後まで高視聴率を記録したら、テレビマンたちはますます目先の数字欲しさに似た作品を量産しかねません。

さらに、そんな懸念を助長するのが視聴率に関するネットニュース。「視聴率という指標に疑問を抱きながらも、それに代わるものがないため、結局視聴率に関する記事をアップする」ため、高視聴率=正義、低視聴率=悪の図式を高めています。

そんなネットメディアの視聴率に関する報道を見た視聴者も、「視聴率という指標には辟易しながら、一方で自分の見ている番組が高視聴率だと喜び、低視聴率番組を容赦なくたたく」など、結果的にテレビ局が視聴率獲得に走る一翼を担っているのです。

視聴率という根本の問題を解決しなければ、テレビ業界の業績は好転しないでしょうが、喫緊の対策としては「これ以上、1話完結の事件・問題解決ドラマを増やさず、連続性のある大ヒット狙いの作品を手掛ける」ことも大切な気がするのです。

この記事を読んで胸が痛くなるテレビマンは多いと思いますし、なかには怒りの声を上げる人もいるでしょう。ただ、どうか、「目先の視聴率を追わなければ仕事にならないんだ」と開き直ることなく、テレビ業界の未来に向けた勇気ある一歩が踏み出せますように。テレビ業界のかなり端を歩く1人として、そう思わずにはいられません。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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