27歳「派遣プログラマー」が貧困に苦しむ事情 月の手取りは10万円、住まいは「脱法ハウス」

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八方ふさがりの現状は、政治や社会制度と関係があると思うかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「選挙はだいたい行きます。死にたいという気持ちが高まっているときは自民党に入れます。(現在のような政策が続けば)私のような役立たずはいずれホームレスになって野垂れ死ぬことができる、それを期待して投票します」

ずいぶん極端な主張だが、ジュンさんなりの社会への不満の訴えなのかもしれない。

私が取材で札幌を訪れたのは数年ぶりだった。市内中心部にある百貨店を通り過ぎたとき、そこは前回以上に中国人や韓国人の観光客でにぎわっていた。手取り額10万円では、ここにあるブランド品や高級品には縁がないだろうな。低賃金労働者ばかり増やして、国内の個人消費が伸び悩むのは当然だろう――。

簡単に「死」を口にするのだが…

そんなことを考えていたとき、ジュンさんの働かされ方に目立った違法性がないことに思い至り、がく然とした。彼の勤め先に悪質なサービス残業や長時間労働はない。社会保険料も会社側が負担している。それなのに、百貨店でのたまの買い物どころか、自活すらままならない。こんな働き方が合法であることがおかしいのだ。

確かにジュンさんは一度手に入れた正社員の座を手放した。しかし、その後、雇用調整に迫られているとも思えない会社で、いたずらに細切れ雇用を強いられることが正当といえるのか。割高な家賃で脱法ハウスを貸し付ける業者に食い物にされることが、すべて彼の自己責任なのだろうか。

ジュンさんの鞄には自己啓発本が何冊も入っていた(筆者撮影)

ジュンさんには平日の仕事終わりに話を聞いた。手提げ鞄がやけに重そうだったので、中を見せてもらうと、『アイデア大全』『問題解決大全』といったいわゆる自己啓発本が何冊も入っていた。

「(合法的な)ガス室とか、自殺装置とか、安楽死カプセルとかがあるなら、いつでも送り込んでくれて構わないんです」

簡単に「死」を口にするに一方で、必死に自己啓発本にすがる。自暴自棄にも見える言葉は、変わりたい、抜け出したい、生きたいという心の叫びにも聞こえた。

藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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