ところで、施政方針演説の最初に挙げられた「働き方改革」のメニューとして、同一労働同一賃金、長時間労働の慣行打破、などが標榜されている。筆者自身も約25年サラリーマンとして働いているが、これが実感されるようになれば、有権者の多くを占める労働者の支持をより得ることにつながるだろう。ただ、これを実現する具体的な手法についてはさまざまな議論があり、中には効果が薄い政策メニューもみられるようだ。
たとえば、同一労働同一賃金は、具体的には非正規と呼ばれる労働者の待遇を引き上げることだが、それを企業経営者に実現させる具体的な方法は何か? 賃金水準全体を押し上げるために、賃上げに踏み切った企業に対して税負担を和らげるなどの政策はあるが、この税優遇措置が幅広く使われる可能性は低いと思われる。
「非正規社員」の待遇を改善する最も確実な方法とは?
また、仮に労働者に支払われる賃金が上がっても、企業経営者の中には、もともと賃金水準が高くスキルも高い将来有望な従業員の給与水準の引き上げを優先させたい、と考える企業経営者もいるだろう。
非正規という言葉のニュアンス・使われ方が妥当ではないのだが、企業経営者としては多様な雇用制度を導入し、一方で労働者自身も多様な働き方を求めている。両者のニーズをマッチングさせる人事制度を柔軟に運営することで、労働市場の需給が逼迫する中で、人的資源を糧とする企業経営者は生き残りを図る必要性が高まっている。
結局、多くの日本人は市場経済で生きているのだから、労働市場の需給メカニズムを通じて、企業経営者が自発的に、非正規社員の賃金水準を引き上げる誘引を強めることが必要になる。つまり、非正規社員の賃金水準が低すぎるという「格差解消」が政治問題であるとして、待遇改善で格差を是正するにはどうすればいいか。労働需給をより逼迫させ、その状態を長期化させることが、愚直ではあるが最も確実な方法になるということだ。
労働需給をより引き締めることによって何が起こるか。労働者として働いてもらいたい非正規社員の賃金が底上げされるには、社員の時給そのものが高まるケース、あるいは正規社員に置き換えられるケースもあるだろう。
ただ、低賃金労働者の給与水準底上げがどのように実現するかは、個々の企業経営者の人事政策に依存する。このため、多様な働き方が広がる中で、いわゆる「非正規社員」の数を政府が制御できるとは思わない。また、責任範囲が限定的な労働者の給与水準が、正規社員と同等まで高まるというのも現実的ではない。
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