「風刺漫才」が日本では受け入れられない理由

そもそも「民主主義の概念」が輸入モノだ

もちろん日本でもこういった諸概念は使われるが、日常で振りかざすと、大げさに聞こえる。「重い」「物騒」「青臭い」「めんどくさい」とさえ感じる人も少なくない。おそらく、これらの大きな概念は輸入されたものであるため、日常とかけはなれた「大きすぎる言葉」なのだ。さらに日本では権力への抵抗の歴史的体験がかなり少ない。そのせいか日本のお笑いに大きな概念は馴染まない。むしろ避けようとする。その結果、敷居の低い、気楽な娯楽として成り立つ。

だがウーマンラッシュアワーは大きな概念テーマに漫才を行った。ネガティブな意見の中には、「説教をされている気分」といったものも散見されるが、当然ともいえる。

裏を返せば、テレビのコントに同性愛者をデフォルメしたキャラクターや、顔を黒くペイントしてアフリカ系の人物を登場させるのも、お笑いに「平等」「人権」といった大きな概念が前提になっていないからだろう。だから欧米から人種差別だとの指摘をされてもピンときにくい。欧米にも人種ネタはあるが、逆に大きな概念を意識しながら風刺に転化しているのだと思う。

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ひるがえって、会社などの組織でもそうだが、「ツッコミ」とは自律的な変革力の源泉でもある。これがないとダイナミズムを失う。私が住むエアランゲンのご当地カバレティスト、カール・クラウスさんは毎年地ビール会社によるイベントで芸を披露する。客は風刺を期待しているが、もっと優しいものを望んでいる。なぜなら、ここに集まる客は同市内のVIPで、風刺の対象だからだ。カール・クラウスさんによると観客の様子は「私を洗ってください。でも濡らさないでください」という雰囲気だと笑う。

カバレットのようなお笑いは、権威側にとっては歓迎されないこともあるが、同市のVIPたちを見ると、風刺の対象にされることを恐れつつも、「ツッコミ役」がいてこそ、社会の自律的な変革力があるという了解があるのかもしれない。カール・クラウスさんは、自身のような存在を「街では大切」とも述べる。

シャルリー・エブド紙襲撃への反応は当然だ

別の角度からいえば、欧米社会は「ツッコミ役」の排除・攻撃に敏感だ。2015年、風刺の強い「シャルリー・エブド紙」への襲撃事件が記憶に新しい。筆者は同紙の内容や、フランスでの受け止められ方に詳しくないが、ドイツでも同紙襲撃に対して、追悼集会などが行われた。

表現の自由の危機には敏感。2015年、フランスのシャルリー・エブド襲撃事件はドイツでもショッキングだった。(写真は同年末のフランステロに対するドイツでの集会、筆者撮影)

この反応は当然だろう。「表現の自由」の危機を想像するには十分な出来事であり、深読みすれば社会や権威に対する「ツッコミ役」排除につながるからではないだろうか。

以上のようなことから考えると、ウーマンラッシュアワーの漫才の登場は、日本がまだ「ツッコミ役」の居場所がある社会であることの証であり、社会の自律的な変革力の一端が表に出てきたとも解釈できる。さらに楽観的にいえば日本のデモクラシーの質が高まる予兆かもしれない。一方、ウーマンラッシュアワーが不当な理由で活動が継続できなくなった場合、社会の健全性について憂慮すべきかもしれない。

ところで、ドイツでは戦時中、多くのカバレティストが逃げ出したそうだ。なぜならカバレティストは迫害の対象になったからである。

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