池上彰のテレ東「選挙ライブ」は何が違うのか 「選挙報道のアンチテーゼを提示し続けたい」
ーー最近は、情報へのアクセス方法も大きく変化しています。「心の中の小学生の池上君」は、どんどんバージョンアップしていますか。
それは、私がなぜテレビ番組でお笑いタレントをはじめとする芸能人の方々を相手に説明をしているかということにも関係しています。そうした方々は、何かを知らないということを恥ずかしがらないんです。これを知らないのか、ここで驚くのかと、びっくりすることがたくさんあります。
あるいは、テレビ局でもバラエティの制作者と仕事をすると、ものすごく素朴な質問が飛び出すんです。質問が基本的すぎて愕然とすることもあります。でも、一般の視聴者はきっとそのぐらいなんだということを、日々そうした場面で確認できるんです。「週刊こどもニュース」のスタッフもそうでした。子ども向け番組の部署だったので、普段は新聞も読まないし、びっくりすることもたくさんありました。でも「そうか、ここから説明したほうがいいんだ」というポイントもわかりました。
「心の中の小学生の池上君」をバージョンアップするという意味では、大学で教えていることが役に立っています。今の若い人たちが何をわかっていないのかを知ることができるからです。某大学の経済学の授業で、民間の銀行が国債を購入する話をしました。ある女子学生がすごく基本的なことを質問してきたので、「もしかして、銀行に預けた預金を銀行はそのまま金庫に大事にしまっていると思ってない?」と聞いたら、「違うんですか?」と。若い世代の人たちに触れることで、みんなはこれを知らないんだ、ここから説明を始めればいいんだという、説明のポイントを調整することに生かされています。
実は基本的なことを知らないメディア関係者は多い
ーーメディアに携わる人たちが、実は基本的なことを知らないでいることも多いと思います。特に選挙についてはそうかもしれません。
実は今回、改めて公職選挙法を読み直してみたんです。確かにそのなかには、さまざまな規制が記されています。でも、だからといって選挙中の自由な言論報道を規制するものではない、とも書かれてあるんです。変なバランスや中立公正を求めるのではなくて、むしろそれぞれ独自の取材報道を規制するものではないというのが公職選挙法なんです。メディア関係者には、ぜひもう一度読んでほしいです。
放送法では中立公正と言っているけれど、選挙の報道・批評という点においては、公職選挙法は規制していません。もっと自由にやっていいと。さらにBPO(放送倫理・番組向上機構)も、中立公正にとらわれすぎてむしろ自主規制や自粛が行われていると言ってくれている。われわれはこのことをちゃんと考えないといけないと思います。迷ったら原理原則に立ち返る。それが大事だと思います。
選挙報道は何のためにやっているのか。それは、日本の民主主義を少しでも良くする、そして民主主義に反することを監視するということです。あるいは、そもそも放送の仕事の価値とは何なのか。それはやはり、視聴者に喜んでもらえるような良質な番組、民主主義を定着させる番組、教養を高める番組、さらには娯楽。われわれはそういうものを提供するために仕事をしているんじゃないかと思うんです。迷ったら「自分の仕事って何だろう」に立ち返る。選挙報道も同じことだと思います。
私の場合、正規軍とも言えるNHKによる王道の選挙報道があって、それに対するゲリラ的な報道をテレ東で試みたんです。そうしたら民放各局も同じようなことを始めました。形だけでなく、政治家に厳しい質問をするということまで同じようにしてくれるのは、すごくいいことだと思います。けれども、われわれはもっと先を考えないといけないと思っています。それで考えたのが『政界 悪魔の辞典』で、こうした風刺を、他社に差をつけるものとして今回作ってみたわけです。
もしテレ東のやり方がゲリラではなく、王道になってしまったとするなら、今後の選挙報道のあり方について改めて考えなければいけないということで、すでにテレ東では議論が始まっています。
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