池上彰のテレ東「選挙ライブ」は何が違うのか

「選挙報道のアンチテーゼを提示し続けたい」

ーー何と言っても業界関係者を驚かせたのは、候補者を「面白プロフィール」とともに紹介する手法です。

あの「面白プロフィール」は、前々回の選挙特番のときに、制作スタッフが工夫して生み出したものです。私はそのアイデアを見て面白いと思いました。確かに、視聴者の気持ちになってみると、時々刻々と紹介される当選者の経歴について、一部の有名人や自分の地元の候補者であれば興味が持てますが、縁の薄い候補者についてはピンとこない。でも「47歳独身、実家は結婚式場経営」みたいに、人間的にはこんな人なんですと面白く紹介されると、つい見ちゃうわけです。

私の役割は、スタッフが考えてくるたたき台のプロフィール案を、さらに面白くするところから始まります。とても大切な演出なので、プロフィールを作るためだけに取材をすることもあります。こういう楽しめる情報があれば、候補者のことが気になってチャンネルを替えにくくなる。それが狙いです。

「面白プロフィール」で気をつけていること

この演出をする際に気をつけていることが2つあります。1つは「本人が怒ってはいけない」ということです。コツは、結婚式での「昔の悪友による暴露話」の距離感です。新郎の若い頃のエピソードで笑いを取っても、決して新婦をいじってはいけません。でも新郎の別の女性問題を暴くのもいけません。座が凍りつきますからね(笑)。昔は無茶やバカなことをやったよねと笑える程度に、要は本人が苦笑いはするけど許容してくれる程度にするのがポイントです。

2つめは当たり前のことですが、すべて裏を取ることです。これが結構大変なんです。例えば、ある候補者についてスタッフが書いてきたプロフィールが面白くなくて、とりあえず本人のHPを見てみたら、一箇所「自分がピアノを演奏した映像を、ユーチューブにあげている」という情報を見つけました。実際に見てみると、演奏は結構上手でした。それだけだと全然面白くないんですが、ふと再生回数を見ると200回。え、全然見られてないじゃん、これだ!と。

そこで私が書いたのが「本人はピアノのリサイタルをユーチューブで公開、10月はじめの段階で再生回数200回」。裏を取った、事実に基づく情報です。さらに付け加えるなら、私が出演するテレ東の選挙番組では、スキャンダル報道はやらないと決めています。今回も、例えば山尾志桜里さんや豊田真由子さんを追いかけるようなことはしていません。

ーー面白プロフィールにしても、気がつけば他局も同じような演出をするようになってきました。こうした状況をどう感じられますか。

一つの方法がうまくいくと、ほかも同じようになっていくというのは、メディアの流れとしては良くないと思います。特に、何もかも簡単にしようとする最近のメディアのあり方には危機感を持っています。わかりやすくすることと、簡単にすることは違うんです。本質を残しながらわかりやすくすることは難しいことなのに、最近のテレビにはある種の子ども騙しみたいな「簡単化」が見られます。かつて私が担当した「週刊こどもニュース」でも、子ども騙しはいけないとよく言っていました。どんなややこしい話でも、その本質をちゃんとわかってもらうため、省略しないで説明するにはどうすればいいかという苦労を重ねてきました。

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