池上彰のテレ東「選挙ライブ」は何が違うのか

「選挙報道のアンチテーゼを提示し続けたい」

メディアに携わる人は、物事を本当に理解してはじめてわかりやすく説明できるということを理解するべきです。チャチャッと調べた表面的なことで説明すると、とんでもない間違いが起こりかねません。きちんと調べて、しっかり理解してはじめてわかりやすくできるんです。

私がよく例えるのが「大学の学部生、大学院生、ベテラン教授」です。学部生に研究内容を聞くと、シンプルに「こんなことです」と即答します。わかりやすいけれど全体像がわからないまま話しているので、本当は大事なところが抜けてしまっています。これが院生になると、全体を一生懸命勉強しているのでいろいろ説明したくなり、長々と語るのでワケがわかりません。それがベテラン教授になると、全体がわかったうえでどこを省略すればいいかもわかっているので、とてもわかりやすい説明になります。

つまり、学部生のわかりやすさとベテラン教授のわかりやすさは似ているようで違うんです。NHKのニュースでやりがちなのは院生の説明です。あれもこれもと語るので結局わかりにくい。一方で民放の番組が陥りがちなのが、学部生レベルのわかりやすさです。私が目指すのは、全部を理解したうえでどこを省略したらいいかというベテラン教授の表現なんです。

「小学生の池上君」が何をすべきかを教えてくれる

ーー時に各政党の幹部を追い込むような、政治家に対する鋭い質問も池上さんの独壇場です。

メディア関係者が、政治家に厳しい質問ができない理由は2つあります。1つは、政治家との人間関係を壊したくないという理由。今後も良好な関係で仕事をしないといけないから、怒らせるわけにはいけないと、当たり障りのないインタビューになるんです。「当選おめでとうございます。今のお気持ちは?」みたいな。2つめは、反論されたらどうしようという不安です。私の場合は、政治家に嫌われてもいいので、厳しいことも聞いてしまいます。厳しいことを聞くと、その反応で政治家の人間性が見えてきます。質問に直接答えが返ってこなくても、そのときの不機嫌な態度で、政治家の人柄が視聴者に伝わったケースもありました。

質問を考えるときに大切なのが、視聴者目線です。政治に詳しい記者には“視聴者が何を知っていて、何を知らないのか”が見えなくなっている人もいます。そうなると、質問がどうしてもプロの目線になってしまう。

選挙特番の人気企画である「池上バスツアー」では今回、創価学会の“F票”という活動に注目しました。創価学会のF票は、選挙が専門の記者にとってはほとんど常識です。でも、一般の視聴者はまったく知りません。そこにズレがあるんです。それこそ創価学会が公明党を応援していることなんて当たり前すぎて、これまでのテレビでは説明しませんでした。それをテレ東でしたときは、政治専門の記者たちから「こんな当たり前のことを、なんでわざわざ説明しているんだ?」という冷ややかな反応を受けました。でも、一般の人には知らない人もいます。

普段テレビでやらない内容を選挙特番で放送しただけなんですが、一方でタブーに切り込んだなどと言われ、大きな反響を呼びました。でもそれは過大評価です。私は視聴者が知りたいことを、視聴者の目線で素直に質問したり解説したりしているだけなんです。

私の場合は、全部「週刊こどもニュース」の手法なんですよ。あの番組では、放送する内容の何がわからないのか、何を知りたいのか、直接出演者の子どもたちに聞きました。出演者の子どもたちは、何がわからないのか、放送する内容の何を知りたいのかをスタッフと話し合いました。

その経験から、私の頭の中にもうひとりの「小学生の池上君」が現れました。伝える内容を考えていると、「そんなこと、わかんない」とか「こっちのほうが知りたい」とか、心の中で言ってくれるんです。

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