(第1回)なぜ、御社の新規事業はうまくいかないのか?
坂本桂一
私は、もともとは事業家として過去に何十社もの会社を立ち上げてきました。ハイテク企業あり、流通会社あり、海外企業とのジョイントベンチャーあり、レース会社あり、業種・業態は様々です。そのうちに他の人や企業から事業立ち上げについて相談されるようになり、過去に関わった事業の数は、数えてみれば200を超えています。
この経験を活かして、現在は経営コンサルタントとして企業の新規事業の立ち上げのサポートを行っています。このコラムでは、企業が新規事業を立ち上げる際に成功確率を上げるための「コツ」のようなものをお伝えしていきます。
さて、今日、国内でなんらかの新規事業に取り組んでいる企業はどの程度あるのでしょうか。株式会社フロイデが今年8月に国内のビジネスパーソンに対して行った調査から推計すると、過去5年以内に何らかの新規事業に取り組んだ会社は、全企業の3割程度。複数の新規事業に取り組んでいる企業も2割程度存在しているようです。
では、そうした企業において、新規事業はどの程度の成功率を持っているのか。実際に企業内で新規事業に関与している(した)層に聞いてみると、その成功率は1/2もないと考えている層が大半です。つまり、企業が貴重なリソースである、人、モノ、カネを投入し、苦労して立ち上げた新規事業の2つに1つは水の泡と消えてしまう。いえ、自身の経験から言えば、実際の成功率はもっと低いと感じます。3割、いや2割もないかもしれない。10やって1つ成功するかどうか、つまり、新規事業は単純な確率論から言えば、失敗するほうが「普通」なのです。
ですので、実際の新規事業立ち上げの現場に行きますと、ほとんどの人が困っています。
たとえば、
● | 新規事業をはじめてみたが、最初のビジネスプランどおりに全く売上げが伸びない。まだ開始して3ヶ月なのに、もう予算を縮小しようという声が役員から聞かれ始めた。 |
● | 社長命令で新規事業を立ち上げようとしているが、何から手をつけていいかまったくわからない。とりあえず競合他社の真似で、新しい仕組みを導入してみたが機能していない。 |
● | 社内公募制を敷いたが、集まったのは最初だけで、少し経つと全然アイデアが集まらなくなった。応募数の維持が目的になってしまっていて、実際にビジネスになるかどうかは正直言って関係がなくなっている。 |
● | 社長の肝いりではじめたビジネスなので、ダメとわかっていても誰もストップできない。どんどん資金が投入されていって、赤字を垂れ流している。このままでは会社の屋台骨が傾きそう。 |
● | 毎日あがっている売上げ数字とにらめっこをしている。社内報告用にたくさんの分析資料を作っているが、どうも、毎日無駄な動きをしているように思えて仕方がない。本当は何をやったらいいのか。 |
● | 毎日が閉塞感で押しつぶされそうである。どうしたらいいかわからない。やれることはすべてやっているのだが。いったいどうしたら、脱出できるのか。 |
● | まだはじめたばかりだからもう少し様子を見よう、といっているうちに、あっという間に5年たってしまった。止める、という判断をできる人が誰もいない。 |
● | 可能性のある新規事業アイデアを提案したが、役員会で合議する中で、骨抜きにされてしまった。うちの会社では新規事業は立ち上がりそうにない。 |
などなど。
そのため、担当者は独力で新規事業を立ち上げようとしているような状態で、企業内の常識、企業内に蓄積された知恵、先輩のアドバイスに頼らざるをえません。ところが、多くの会社においては、先輩も、取締役も新規事業を立ち上げた経験などないのです。
大企業で優秀な人材がそろっているといっても、起業経験者は創業時の社長だけで、あとは秩序を維持しながら働くのが得意な社員がいるというのが通常の組織ですから、何もないところに一から秩序を作る能力がある人はいないのが普通でしょう。
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