「引退アスリート」の人材活用も日本の課題だ 現役時代からの「デュアル」キャリアに注目

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デュアルキャリアを“絵に描いた餅”で終わらせないために、具体的にはどのようにプログラムを推進していくのだろうか。

「タレント期に作成するプランを実行するには、競技特性や性別、個々の能力などを加味することが欠かせません。例えば10代前半にフルタイムで練習しなければ競技力が上がらないという競技や種目の場合、その時期は練習を優先し、別の時期に勉強の比重を持っていく必要があります」(野口氏)

キャリアプランニングに際しては、アスリートのデュアルキャリアの専門知識を持つ「アスリートキャリアアドバイザー」が必要だとも指摘。だが、目下のところこれに該当する専門人材はおらず、今は競技団体や大学関係者、キャリアカウンセラーらを対象に育成プログラムを開発作成しながら、研修制度、雇用先の確保などを見据えた仕組みづくりを進めている最中だ。

仕組みづくりと併せて制度づくりも急務だ。日本のデュアルキャリアはイギリス、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、ニュージーランド、フィンランド、フランスなどスポーツ先進国の事例を参考にしているが、中でも「スポーツコード」と呼ばれる法規制のもとで、学業や雇用面での特別措置を実行しているフランスの例は興味深い。

公務員試験の年齢制限や資格要件の排除、大学の学業期間の延長や欧米の大学でしばしば導入されている試験ボーナス得点の加算、欠席の許可などが法律で定められ、アスリートは適切な時期に必要なサポートが受けられるという。

ただ、「海外の成功事例がそのまま日本に当てはまるとは限らない」と野口氏。なぜならば社会の仕組みや文化が国によって異なるためだ。

スポーツ庁がコンソーシアムを創設

日本独自の制度づくりのためにも、文部科学省の外局であるスポーツ庁は2017年2月、「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」を創設し、スポーツ界、教育界、経済界の連携を求めた。各分野の情報、ノウハウ、人材、ネットワークといった資源を共有・活用し、アスリートのキャリア支援を包括的に進めていく中で制度づくりに理解と関心を得ることを目的の1つにしている。

第2回のACTで話す太田雄貴氏(写真提供:日本スポーツ振興センター)

初年度の会員は競技団体を中心とした13団体。コンソーシアム創設前の2016年から年1回、各関係組織が一堂に会す「アスリート・キャリア・トーク・ジャパン(ACT)」というコンベンションも開催している。年明けの2018年1月9日にはエリートアスリートの強化拠点である味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)で第3回を開催予定で、セカンドキャリアでも活躍する元アスリートの生の声を現役アスリートに届けるという。もちろん教育界、民間企業、競技団体、指導者やアスリートの保護者らも参加する。

2020年の東京五輪・パラリンピックを約2年半後に控えた今、社会の関心は引き続き大会開催にかかる費用や競技力の向上に向きがちだが、その裏ではアスリートの生涯を通じたキャリア形成が地道に進められている。彼らがアイデンティティを失わず引退後もさまざまな役割を社会の中で果たすことができれば、欧米に比べてまだ低いとされる日本のスポーツの価値は上がっていくのではないだろうか。

高樹 ミナ スポーツライター

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たかぎ みな / Mina Takagi

千葉県出身。競馬、F1、プロ野球を経て、オリンピック・パラリンピックでは2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京、2010年バンクーバー冬季、2016年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等の出演多数。最新本『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)構成。

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