「バイヤーが気にするのはお店の棚の中での商品構成や価格のバランス。マーケティングに配属されてすぐは、営業時代の目線のままでその先にいる消費者が見えていませんでした」
長い営業生活によって染み付いた「バイヤー目線」を払拭できずに、中々ヒット商品に恵まれなかった藤野。マーケティングに向いていない、営業に戻ったほうがいいのかもしれないと考えるようになっていた。
しかし、思い悩んでいたときに鳴った1本の電話をきっかけに、転機が訪れる。
電話の主は、つけ麺店「六厘舎」の三田遼斉店主だった。2008年当時はつけ麺ブームの真っただ中。六厘舎はつけ麺の超人気店で、店の味を完全に再現したチルド麺を製品化できないか、という内容の飛び込みの電話だった。
最初は、実現は難しいと考えた。しかし、そこから生まれたのがヒットシリーズの「つけ麺の達人」だ。チルド麺は標準的な価格は3食で198円前後。一方でつけ麺の達人は2食298円に設定。1食あたりの価格は従来品の倍以上と強気の価格設定だったが、売れ行きは想定以上だった。
製品のコンセプトはあくまでも「お店の味をどこまで再現できるか」。実はチルドの麺は生麺のため、お店のものと変わりはない。製品開発の話を進める中で藤野は、徹底的にこだわればチルドの製品でもラーメン店の味に近づけることができるかもしれないと思い始める。
店の味を徹底的に再現するために、「達人」である六厘舎の三田遼斉店主をはじめとした3有名店の店主に監修を受けた。最後までお店と同じ体験をしてもらうために、割りスープを作るための小袋もつけるという徹底ぶりだった。
つけ麺の達人のヒットで、「価格以上の価値を感じてもらえれば、消費者は受け入れてくれる」ことに気がついた藤野。バイヤー目線に加え「消費者目線」を持つきっかけになった。
100年続くブランドにしたい
「消費者調査をもとにして出てきた答えで製品開発を行ってもうまくいかない。本当は、顕在化していない、潜在的な需要を探り出さなければいけないということに気がつきました」
チルド食品の営業ではつねに新しいことを提案していかなければ見向きもしてもらえないという危機感に突き動かされ、マーケティングでは消費者目線に立つことに重要性を学んだ。この経験が現在のカップヌードルのマーケティングに活きている。
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