「エルサレムが首都」でトランプは孤立した 米政権内の反対も自己保身で押し切ったか
ところが、である。案の上、パレスチナ自治政府、イスラム原理主義組織ハマス、ヨルダン、トルコなど周辺諸国・地域からは、激しい反対活動が起きている。米国やイスラエルと中東和平の核を強固に形成している、エジプトのアブドルファッターフ・アッ=シシ大統領からも、「中東での平和の機会を奪いかねない措置であり、地域情勢が複雑化しないよう努力することが必要だ」と反発を招いた。米国への抗議はマレーシアやインドネシアなど東南アジアのイスラム社会にも拡大。このほか英国やフランスといった欧州諸国、ロシア、中国からも、不信と疑問の声が挙がっている。
トランプ声明を歓迎するのはイスラエルだけ。同国のベンヤミン・ネタニヤフ首相はTVで語った。「今日は歴史的な日です。エルサレムがイスラエルの首都となって70年。エルサレムは、われわれの希望であり、夢です。エルサレムはかつて3000年にわたって、われわれユダヤ民族の首都でありました。そこには神殿があり、われわれの歴代の王が支配し、預言者たちが活躍した街でした。(中略)米国がイスラエルの首都エルサレムを認識し、米大使館の移転を決断した大統領の勇気に、深く感謝します。この決定は、古代から続き、そして永続的に続く平和を推進する真実です。大統領の決定は、平和への重要な一歩です」。
その声明後、直ちにイスラエル・パレスチナでは暴動が起こり、ガザでは死者が出た。暴動やテロが今後、世界に拡散する懸念が強い。
現在世界に196の国家があるが(外務省HPより)が、トランプ声明を支持するのは、イスラエルとチェコの2カ国のみ。国際合意にあえて反することは、戦後、国際秩序を形成し保持してきた米国の政策と乖離している。
なぜ、トランプ大統領が従来の米国外交政策に反し、移転声明を出したのか。背景を推測してみる。
ロシア疑惑など政治的危機をかわす狙い?
政権発足後から、閣僚や補佐官の人事更迭など、摩擦が絶えないトランプ政権。マイケル・フリン前補佐官が12月1日、FBI(米連邦捜査局)から司法妨害などの罪で起訴され、翌2日に有罪を認めて捜査に協力する姿勢を示したことは、衝撃だったはずだ。ロシア疑惑などが大統領や娘婿ジャレッド・クシュナー上級顧問にも波及する可能性があるからである。
また同時期、アル・グリーン民主党下院議員からは、下院での大統領の司法妨害などを理由に、弾劾審議に入る議案が提出されていた。この議案は12月6日に否決された。共和党が拒否したからだ。
このように、トランプ大統領のエルサレム首都認定と大使館移転声明は、その政治的危機をかわす狙いがあったとも推測できる。
政権内部からも反対の意見は強い。CNN(12月6日)によれば、ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官に加え、マイク・ポンペオCIA(米中央情報局)長官も反対、一方でマイク・ペンス副大統領、ニッキー・ヘイリー国連大使、デビッド・フリードマン駐イスラエル大使が賛成し、クシュナー上級顧問とジェイソン・グリーンブラット国際交渉担当特別代表が、エルサレムを首都認定することを支持したものの、大使館移転は先送りするよう主張した、としている。ワシントンポスト(12月6日)によれば、賛成したのは、クシュナー上級顧問、ヘイリー国連大使、ペンス副大統領で、反対したのは、ティラーソン国務長官、マティス国防長官と報じた。
結局、トランプ大統領が自己保身のために政権内部の反対すら押し切り、中東で「火に油を注ぐ」政策を選択したことに対し、国際社会が不信を表明することは当然だろう。
さて、事態は今後、どうなるのか。トランプ大統領はしばらく中東が”炎上”するが、長く続かずにいずれ沈静化する、と期待しているようだ。その後は「エルサレムを首都と認めた初の米国大統領」という”名声”が残ることを望んでいるはずである。
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