ノーベル賞を多く生むドイツ科学教育の本質 地方都市でも「生の科学」に触れる機会が多い
「科学の夜長」は地域の企業や大学、研究機関などが一斉に門戸を開き、一般の人が訪問できる催しだ。2003年以来、ニュルンベルク市、フュルト市、エアランゲン市の3市全体が会場となり、隔年で秋の週末、午後6時から翌午前1時まで開催される。2017年は10月21日に開催され、3万1500人が訪ねた。
同地域の大学、研究機関、医療・教育機関、発電所、企業、アーカイブ、ミュージアムなどが一斉に門戸を開ける。各組織はプロジェクトや研究内容、技術、業務を紹介・体験できるようにするほか、講演などを行う。
会場になる場所はシンボルカラーの緑のライティングが行われている。参加者は12ユーロ(1500円程度)のチケットを購入すると、どこでも訪問が可能。一夜限りの「科学万博」をイメージしていただけるといいだろう。
プログラムの数は約1000と多く、参加機関は約350を数える。開催場所とプログラム内容をまとめたガイドブックが毎回作られるが、約300ページの分量だ。地元も公共交通機関が協力して、「○○地区コース」といった数種類の路線を作り、開催時間中に巡回バスを運行する。チケットを持っていると、どのバスにでも乗れる。一晩ですべてを回るのは難しいので、訪問者たちは、ガイドブック片手に自分なりに訪問プランを立てている。
「夜長」当日は街中を自転車や徒歩で移動する人も多い。家族連れ、中高年の夫婦、学生などさまざまな年齢層が目につく。巡回バスではガイドブックを見ながら、次はどこへ行こうかと相談している若いカップルもいる。デート感覚で参加しているのだ。
また、小さな子ども向けには午後2~5時のあいだ、大学などで科学の実験を見るといった子ども向けのプログラムも用意している。
地方の小都市が元気なドイツ
日本の自治体のスケール感覚からいえば、ニュルンベルク市のような人口50万人の都市は「どこにでもある地方の都市」というイメージが強い。それゆえ、これだけの「科学」スポットがなぜあるのかと考える読者もおられるかもしれない。
ドイツの自治体は日本と比べ規模が小さい自治体が多いため、人口10万人でもけっこうな規模の都市だ。歴史を振り返ると、経済や文化を都市の中で独自に発展させてきた経緯があり、世界やEUでトップシェアを誇る大企業や中小企業の本社が点在している。東京一極集中の日本と対比すると、「小さな中心地」が分散しているのがドイツだ。
開催都市の1つである人口10万人のエアランゲン市を見ても、大学や医療技術の起業支援機関、日本にも拠点を持つフラウンホーファー研究所や前述のマックス・プランク研究所といった科学関連拠点がある。ちなみに音声データ圧縮技術のmp3は同市のフラウンホーファー研究所で開発された。これらの組織は毎回「パビリオン」として門戸を開いており、今回はマックス・プランク研究所でオープニングが行われた。
また「科学」といえば、物理学や化学、機械工学、ハイテクなどの分野のイメージが強いが、大学の考古学や哲学といった分野の学科も参加している。
大学図書館も歴史的価値のある本や部屋などを公開する。もっと身近なものでいえば、地元のパン製造企業や、鉛筆などの文具品を製造している会社なども門戸を開き、工場見学や体験をできるようにしている。
「あの建物はパンを作っている会社」「友達は、この研究所で働いている」「どうやら地元の大学では最先端の研究が行われているらしい」――。地元の人はこういうことを普段知り得ても、実際に見たり、訪ねたり、具体的に説明を受けたりする機会は少ない。しかし、「科学の夜長」ではそれを可能にするのだ。
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