ノーベル賞を多く生むドイツ科学教育の本質

地方都市でも「生の科学」に触れる機会が多い

最新の電気自動車の試乗も(筆者撮影)

「科学の夜長」を運営しているのは、ニュルンベルク市にある文化プログラム専門の会社だ。地域の「科学」を顕在化させるというのが基本的なコンセプトとなっている。言い換えれば、科学というテーマで地域社会を再編集しているのだ。

ニュルンベルク市のゲオルク・シモン工科大学の学長ミヒャエル・ブラウン博士は「開催地域の研究ネットワークが浮かび上がる」と述べる。エアランゲン-ニュルンベルク大学学長のヨアヒム・ホーネッカー教授は、「科学側が社会に広報活動を行う機会であり、研究者の情熱であふれる」と語る。

まちづくりの観点から見ると…

地元のビール会社も参加。ビールの醸造に関する説明を行っている(筆者撮影)

こうしたイベントは市民にとって科学をより身近なものにするが、役割はそれだけにとどまらない。地域社会を2つの観点で強くするのだ。

まず、地域への愛、プライドを強くする働きだ。地域の科学資源を把握することで、地域の人々にとっては「誇り」を持つことにつながるかもしれない。「誇り」とまでいかずとも、地域外の人に「自分が住む地域にはこんなものがある」と語れるだろう。また、イノベーションや創造性といった雰囲気を地域そのものにつくることができる。

実は「科学の夜長」にインスパイアされた取り組みが行われている地域が日本にもある。金属加工の産地として知られる燕三条(新潟県)で毎年行われている「工場の祭典」だ。同イベントは普段は閉じられている町工場を訪れ、職人たちの手仕事を間近に見て、彼らと対話したり、ワークショップに参加したりできるイベントだ。

2013年に開始される前は、「地元事業者がそれぞれ商品をブランディングすることで地域全体のブランド力を高めるべき」という主張があった。同時期、三条市の國定勇人市長は「ものづくりのまちとしてのにおいが漂っていなければ、ものづくりのDNAを次世代に受け継ぐことはできない」とも考えた。いわば文化プログラムで町の雰囲気をつくる必要性を訴えたわけだ。この時に「科学の夜長」のことを知り、市が一丸となって「工場の祭典」をスタートさせた。開催5年目となる今年は、4日間の開催で5万3294人の来場者を集めるまでに発展した。

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2つ目は、市民のリテラシーを高める働きだ。ドイツ社会を見ていると、知識や情報を広く平等に知らしめることが大切という考え方が根強い。博物館や美術館が市民にとって身近であるのも、そういった考え方が関係している。

この背景には、知識や情報を得ることで社会的な議論の出発点に立てるという考えがある。たとえば、原発に関する知識や情報を持っていなければ、社会にとって原発は有用かどうか議論できないといった具合だ。社会的な議論を活発に行うためにも、市民は多くの情報源を持つべきであり、「科学の夜長」はその機会の一つだ。

同イベントは「科学者育成の土壌をつくる」という効果もあるが、地域イベントの側面からは、「地域への誇りを強くする」「市民の情報感度が高まる」といった効果が期待でき、ひいては「強い社会」が実現される。これが「科学の夜長」の価値といえるだろう。

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