それは“敗北”から始まった。MRJが三菱重工を変える
「ものづくり」を革命 さらば!一品生産
風車の主流が2・4メガワット機から5~7メガワット機に移るトレンドをにらみ、07年0・5ギガワット以下の生産能力を12年には2・5ギガワット超と5倍以上に拡大する。風車が巨大化すれば、風車の羽に主翼の構造技術(航空宇宙事業本部)が活用できるし、欧州で受注を狙っている洋上風車は船舶・海洋事業本部との共同作業となる。大宮社長の言う「横串」である。「総合力が効いてくる。ここで負けたら恥。世界シェア10%は取りたい」(福江一郎副社長)。
回収の早い中量産品を中心に大胆に投資し、シェアを獲得して収益力を高める--。大宮社長の方法論には、自身が「産機」(印刷機・工作機械)、「冷熱」(空調)という中量産品分野を担当した経験と学習が反映されている。が、大宮社長が変えるのは、事業戦略だけではない。三菱重工の「ものづくり」を、丸ごと“中量産品化”しようとしている。
従来、三菱重工の主流の受注生産部門では、設計者は注文ごとに1枚1枚、図面を起こしてきた。それが三菱重工としての差別化であり、強さだと固く信じ込んできた。
大宮社長は「図面を描くな。何で描くんだ」と説いている。「モジュラー・デザイン」の提唱である。
顧客には「基本+オプション」で対応し、受注品も標準化・共通化を徹底する。生産は中量産品的な“繰り返し生産”が中心になり、治具・工具も同じ、リードタイムも短くなるはずだ。
「それでは売れない」と抵抗する営業に、大宮社長は反論した。「毎回、図面を描くからミスやトラブルが起こる。手直しに追われて、次の基本設計にも影響が出る。モジュラー・デザインにすれば、負の循環が断ち切れる。いいことだらけ」。
率先してモジュラー・デザインに取り組んだのが、受注生産の典型ともいうべき船舶・海洋事業本部だ。操舵室は三つにパターン化して図面を80%共有化し、自動車運搬船は99%の図面共有化を達成した。
船舶・海洋事業本部は今、数年来の“呪縛”を解こうとしている。02年10月、長崎造船所で建造中だった豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」が炎上。三菱重工は130億円の損失を計上した。以来、断念していた客船の受注を再開する。「船主は欧州だけでなく、アジアにも建造拠点を持ちたいと考えている。13年春にデリバリーする第1船、翌年の第2船を商談中。年度内に契約したい」(飯島史郎常務)。
客船の価格はLNG船の4倍。価格急騰中の鋼材の全原価に占めるウエートも5%(コンテナ船は20%)と低い。造船部門の収益改善には魅力的だが、客船の設計精度、材料・生産管理の難度はウルトラ級だ。軽々に手を出せば、逆に、赤字要因になりかねない。客船に再挑戦する余裕をつくり出すためにも、造船部門全体はさらなるモジュール化を、という“循環”となる。