それは“敗北”から始まった。MRJが三菱重工を変える

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“結婚”に区切り 提携も大投資も

米キャタピラー社と三菱重工の50対50の合弁会社である新キャタピラー三菱(SCM)。3月26日、「45年間の結婚生活」(佃和夫会長)に区切りがつけられた。MRJの事業化決断の2日前のことである。

1年以上にわたり三菱重工の持ち分の売却交渉が続けられていたが、結論は意外なものだった。

三菱重工が持ち分の半分(=SCM株の25%)をキャタピラー社ではなく、SCMに500億円で売却する。すると、どうなるか。三菱重工の持ち分比率は33%に低下し(=重要事項に対する拒否権を失い)、キャタピラー社自身は1円のキャッシュも出さずSCMの主導権を握ることになる。反対に、三菱重工が得る500億円の出所は合弁のSCMだから、半分は実質自己負担だ。

一つの“割り切り”である。三菱重工はSCMが担当する建機をとっくの昔にコア事業から外している。一方、キャタピラー社はコア事業のフォークリフトの世界パートナーであり、キャタピラー社の油圧ショベルには三菱重工が全量エンジンを供給している。「後処理」に時間を費やすより、フォークリフト、エンジン事業の成長を加速するために、キャタピラー社との良好な関係を優先したい、という判断だろう。

フォークリフトの国内3位、ニチユとの提携でも、割り切った。

海外中心でエンジン車が得意の三菱重工、国内が強くバッテリー車専業のニチユは、ドンピシャの補完関係にある。三菱重工は昨年6月、ニチユへの出資比率を7・6%から20%に引き上げ筆頭株主になったが、その先がある。今年5月、ニチユが50%超出資する新会社を設立し、両社の国内販売を集約・統合することで合意したのだ。三菱重工の国内部隊がニチユの“下”につく形であり、かつての格式を重んじる三菱重工ではありえない選択だろう。

スピードとシェアに結びつくのなら、格もメンツも関係なし。

堂々の「世界トップ奪取」宣言も飛び出した。フォークリフトやエンジンと同じ「中量産品」(量産品に近い商品群)に属する車両過給器(ターボチャージャー)。自動車エンジンの燃費を改善し、排ガス量を抑える補助装置だが、現在、世界1位が米ハネウエル、2位は米ボルグワーナー。三菱重工はIHIとともに3位グループにつけている。

過給器はディーゼル車から普及が始まり、ディーゼル車への装着率は50%超。ガソリン車の装着率は5%にとどまっているが、ガソリン価格高騰で、今後、装着率の急上昇は間違いない。高温技術で先行する三菱重工はガソリン車向けではトップであり、ガソリン車の装着率上昇の恩恵を最大限、享受する位置にいる。ディーゼルエンジン向けについても、自らエンジンを作り、過給器も作っているのは三菱重工だけ。

過給器部隊は大投資を決断した。相模原とタイに専門工場を新設し、オランダの工場も増設する。投資額は締めて400億円。過給器の年商650億円の6割に匹敵する。生産能力は07年度の360万台が11年度には690万台に膨れ上がる。

この時点で世界シェアは現在の17%から25%に上昇、ボルグワーナーを抜き去り、2位に浮上するというのが、三菱重工の算段だ。「その先も狙う。1位のハネウエルをさらに追撃する」(吉田雄彦常務)。

ライバルのIHIが呆れている。IHIは手薄だった欧州市場を攻めるべく、ダイムラーと合弁でドイツ工場を建設中だ。「投資額は3年で100億円。三菱重工のような投資はできない。いったい、どこに売るのか。どんな商売をしているのか」(中村房芳車両過給機センター長)。

が、三菱重工によれば、11年度の生産能力690万台のうち620万台は受注済みと言う。市場は急成長中だが、シーメンス、独ボッシュという巨人も新たに参入する。であれば、先手必勝。スピードである。

「作っても作っても売れる」。うれしい悲鳴が上がるのは、風力発電(風車)だ。米国では風車の発電コストは石炭火力より安い。米国市場中心に「新規の電力需要はとりあえず風車で」という追い風が吹き、現在2年分の受注残を抱えている。

風車は原動機事業本部の商品だが、量産がきき、建設工期も1週間と短い点は中量産品に近い。ここでも、目指すのは、スピードとシェアである。今でこそ、GE、シーメンスのはるか後塵を拝しているが、両社は買収で参入した後発組。三菱重工には、20年前から独自技術で風車に取り組んできた唯一の重電メーカー、という自負がある。

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