ドイツの政治空白が、短期的な経済見通しには影響しないとしても、EUの盟主の政権基盤の弱体化は、EUの改革を滞らせることにはなる。
EUの改革は急務だ。英国の離脱、難民とテロの脅威、加盟国に広がる懐疑主義とポピュリズム、ユーロ圏を構成する国々と中東欧の新規加盟国との亀裂、トランプ政権の米国第一主義など、新たな課題への対応を迫られている(東洋経済オンライン記事「統合のマルチスピード化はEUの維持に有効か」参照)。
2018年はEU改革の正念場の年だ。2019年に入ると3月30日に英国がEUを離脱、6月には欧州議会の選挙となる。現在のEUのツートップである欧州委員会のユンケル委員長とトゥスク首脳会議議長、さらにECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁も10~11月に任期が終了する。英国のEU離脱関連協議は、承認手続き等を考えると2018年秋が期限とされるが、EU・ユーロ制度改革も、体制が刷新される前の2018年に主要な課題にメドをつける必要がある。
トゥスク首脳会議議長の提案でまとめた首脳会議の作業計画書(首脳アジェンダ)によれば、今年12月14~15日の首脳会議でユーロ制度改革関連のスケジュールの合意を形成し、来年6月の決定を目指すことになっている。だが、12月首脳会議の段階では、ドイツは、党派によって見解が分かれる分野で踏み込んだ意思表明を行うことができない。政権樹立が遅れれば、来年6月の決定に向けたプロセスにも影響が及ぶ。
改革の好機を逃せば、将来に禍根
筆者は、メルケル首相が、4期目のレガシーとして、フランスのマクロン大統領とともに、ユーロ制度改革に、これまでよりも前向きに取り組むことを期待していた(東洋経済オンライン「EUは分裂どころか統合を深める改革に進む」参照)。今もドイツがEUとユーロの改革に背を向けることはないと思っている。しかし、連邦議会選挙によって、ドイツ国内の世論の分断が浮き彫りになったことで、内政により重点を置かざるをえなくなったと思っている。
ユーロ圏は、債務危機への対応を迫られたことで、不完全ながらも財政や銀行の危機の未然防止と危機管理の仕組みを備えるようになっている。ユーロ圏が、世界的な景気拡大と低インフレ、企業業績の好調を背景とする「適温相場」崩壊の震源地になるリスクや、ユーロ圏がとりわけ深刻な影響を受けるリスクは大きく低下したと見ている。
それでも力強い景気回復というユーロ制度改革の好機を逃せば、いずれそのツケを払う局面が訪れるのではないかという不安がよぎる。
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