介護離職シングルマザーがハマった貧困の罠 「振り返れば貧困を回避する選択肢はあった」

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45歳で介護離職、47歳で経済的に破綻した。生きるために仕事を見つけなければならない。

「ハローワーク、インターネットの求人サイト、フリーペーパーとあらゆる求人を見て応募しました。全部、断られる。本当に何十件も断られて、おかしくなりそうでした。原因はおそらく年齢だと思うのですが、最終的にはスーパーのレジもダメでした」

正社員どころかパートすら決まらない状況で、姉が通う病院からは容赦なく請求書が届く。払えない。何度も電話で謝って、支払いを延ばしてもらった。限界だった。

「やっと病院での仕事も決まった。でも、時給で月の給与払いなので働いてからお給料になるまでに2カ月くらいかかる。請求がたくさんきてどうにもならなくなって、個人融資っていう闇金に手を出してしまったんです。私、闇金って存在すら全然知らなくて、大変なことになりました」

個人融資とはこの数年に出てきた新しい闇金だ。債務者を掲示板などで見つけ、即日おカネを貸す。金利はすさまじく、川上さんが借りたのは5万円。元金5万円で10日2万円の利子がかかるというシステムで、免許証を写メするとすぐに5万円から利子が差し引かれた3万円が振り込まれた。10日後に5万円を支払う、利子2万円を支払ってジャンプする、どちらかが求められる。

「結局、5万円を返すことができなくて、10日ごとに2万円をまじめに返していました。結局、何度も払ってから5万円を返しました。そうしたら相手は、また勝手に3万円を振り込んできて、終わらせてくれなかった。警察にも行きました。警察から警告してもらっても終わらなくて、職場に何度も電話がかかってきたり、ピザを大量に頼んだりと嫌がらせもされた。せっかく見つけた仕事もクビになりました」

まじめな川上さんは、闇金にとっても餌食にさせやすかった。強引にでも貸し出せば、返済をしてくる。闇金は川上さんから徹底的におカネを引っ張り、結局、たった3万円の振り込みから始まって総額100万円近くを支払ったという。

「闇金から逃げるために今の部屋に引っ越して、昔の職場の先生に泣きついて、今の病院を紹介してもらった。だから、普通の生活が送れるようになったのは一昨年です。大学退学した娘はシェアハウスを借りて、なんとか自立しています。今後どうなるかわかりませんが、姉も落ち着きました」

まじめな人がとことん損をする

川上さんの話は終わった。娘の高校退学あたりで涙目になっていたが、“まじめな人がとことん損をする”典型的な話だった。家族の介護には誰も同情しない、国も社会保障は地域や家族に限界まで押しつける流れがある。彼女に降りかかった介護離職から始まった悲劇は、これからどんどん増えるはずだ。

「介護離職したことは本当に後悔して、仕事がまったく見つからなかったとき、生活保護も受けるべきだったと思いました。行政とちゃんと話をする知識があればよかった。それに苦しい人をさらに苦しめる闇金みたいな人たちがいることも、本当に知りませんでした」

姉の介護を拒否し、闇金には即元金5万円を支払い、携帯電話を変えれば終わった話だ。善意ある人がとことんむしられ、その子どもたちまでが容赦なく被害をこうむる。老朽化した部屋ですき間風に凍える川上さんの姿は、現在のなにか歯車が狂った社会を映しだしていた。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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