介護離職シングルマザーがハマった貧困の罠

「振り返れば貧困を回避する選択肢はあった」

姉は医師から統合失調症と診断された。誰かに見張られている、盗聴されていると言い張って、東京から関西に引っ越していた。長期間の入院はできない、月に何度かは自宅に帰ってほしいと、病院から言われた。月に何度も関西に行く生活になった。

姉には貯金はなかった。不動産業者に実家を安く買いたたかれ、マンションを高額で購入させられたことで、父親が残してくれたおカネはきれいになくなっていた。中学生の娘を抱えながら、常勤で働き、さらに遠い関西で姉の介護がはじまった。

「新幹線を使えば、往復の交通費だけで3万円です。入院費を筆頭に医療費は、全額私が負担しなきゃいけなくなりました。月に少なくても10万円、多いときは30万円くらいかかりました。どうしても関西に行けないとき、自費でヘルパーさんを頼みました。1日1万円くらいかかります」

病状は悪化の一途だった。介護者の重要な役割は薬の管理で、第三者が見ていないと服薬しているかどうかわからない。服薬を怠ると自殺未遂をする、川に飛び込む、マンション共有部で絶叫して暴れるなど、頻繁にトラブルが起こった。

病院に呼び出され、トラブルのたびに連絡がきて、勤務先にも迷惑がかかった。時間はいくらあっても足りない。働きながら遠距離介護が始まって1年、限界だと思った。これ以上、不安定な生活を続けて勤務先に迷惑はかけられないと、退職届を出してしまった。

誰に相談すればいいかすらわからない

介護離職したのは2011年、47歳のときだ。学歴はそれなりに高く、新卒の頃から求職で苦労したことはない。現在の職場を辞めても、なんとかなると思っていた。

「今思えば、当時は思考回路が正常ではなかったです。とにかく今、目の前の姉をなんとかしなきゃいけないという意識が強かった。500万円くらいの貯金はあって、今の厳しい状況を乗り切ってすぐに働けばいいと思っていました。姉は全然よくならなくて、貯金はどんどん、どんどん減っていきました。1年間でおカネはほとんどなくなって、どうにもならなくなりました」

1人で背負い込んで、抱え、悩んだ。家族の介護は誰にも相談ができない。後先を考えずに目の前の姉の介護をこなし、時間は過ぎていった。

「姉の居住地の役所に行くだけでも、大変なことです。なにか相談したくてもたらい回しにされるし、精神病院も家族の相談とかは聞いてくれません。当時は介護保険とかも充実していない時期で、なにを頼っていいのか全然わからなかった。混乱している間におカネがなくなって、姉も目を離したすきに電話線を切ったり、盗聴されているって家の窓という窓を新聞紙とガムテープで潰したり、めちゃくちゃでした」

現在は医療、介護など、社会保障の縮小が国の課題だ。病院は入院を減らして医療保険を圧縮し、介護保険が適用される介護は必要最低限にという流れがある。各自治体で厚生労働省の意向で地域包括ケアシステムの構築に動くが、簡単にいえば、病院や介護施設から自宅に戻し、地域と家族が面倒をみるという施策だ。

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