習近平は鄧小平を否定し毛沢東に走っている 「中国の夢」に国際社会はどう向き合うのか
では、習近平はどうだろうか。「報告」から浮かび上がるのは、鄧小平路線の終焉、あるいは否定という側面と、ある種の毛沢東路線への回帰だ。
習近平は「党、政、軍、民、学の各方面、東・西・南・北・中の全国各地で、党はすべての活動を指導する」として、政治、経済、文化と中国社会のありとあらゆる分野への中国共産党の関与、指導を鮮明に打ち出した。専門家の間には「まるで文革時代を思い出させるような言い回しだ」という人もいる。
それは民間企業にも及んでおり、企業内に共産党組織を作ることを求めている。共産党が中国社会のすべての分野の組織を掌握する。そして、共産党のトップに習近平が君臨する。それが彼の打ち出した統治の姿である。習近平への権限や権力の集中が一層進められ、その考えを「思想」と位置付けることで個人崇拝の動きさえ出てくるという特徴を持っている。
これらは鄧小平が重視した「集団指導体制」とは逆の方向を持ち、毛沢東的な1人の人間への権力、権威の集中路線である。また鄧小平の「中国の特色ある社会主義」という言葉は継承したものの、習近平は市場経済をも党のコントロール下に置こうとしている。これは鄧小平の考えとは異なり、毛沢東的な原理主義に近い。
世界に冠たる国家を形成することが「中国の夢」
「報告」ではこのほかに、「世界に全く同じ政治制度モデルは存在しない。政治制度は特定の社会、政治条件、歴史、文化伝統から切り離して抽象的に評価されるべきではない」「外国の政治制度モデルを機械的に模倣したりすべきでない」とも語っている。これは、人権問題や言論弾圧などの中国に対する批判を意識し、自らの政治制度を正統化するとともに、西側諸国の民主主義システムを取り入れる考えのないことを鮮明にしたものだ。
そのうえで「報告」は中国国民の民族ナショナリズムを繰り返し強調している。歴代の中国の為政者にとって、アヘン戦争以後、西欧列強や日本に侵食された歴史は屈辱的なものであり、習近平も「アヘン戦争以後、中国は内憂外患の暗黒状態に陥り、中国人民は、戦乱が頻発し山河が荒れ果て、人々が生活の道を失う大きな苦難をなめ尽くした」と言及している。この歴史からの脱却、つまり世界に冠たる国家を形成することが、繰り返し登場する「中華民族の復活」であり「中国の夢」の実現なのである。
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