存在感が薄れるニッポンブランド 今一度、企業の「本気度」が問われる中国市場

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そもそも、ブランド担当組織がありますか?

日本企業の基本的な問題は縦割り事業本部制によるリソースの細分化にあると思いますが、ブランドに関して言うと、ブランド推進の専門部署が弱いことが大問題だと思います。私が以前コンサルティングで入り込んだあるグローバル企業には、CEO直属の「グローバルブランド・マネジメントチーム」がありました。グローバルブランドの構築と管理のための専門部署で、世界各市場でのマーケティング/ブランディング活動を中央コントロールする組織です。

そこでは、「世界各国でのブランドイメージの一貫性を保ちながら、ブランドを通した各市場でのマーケティング支援を行なう」という明確な役割と権限が付与されていました。そして、この難しい仕事を担うに足る優秀な人材が揃っていましたし、グローバルなブランド・コミュニケーション展開のための予算とリソースが備わっていました。

私の知る限り、日本企業で社長直下にこれほど機能の充実したブランド推進組織をもつ企業はありません。日本企業では事業会社や事業本部が自前のマーケティング予算を執行して、主として販売促進・広告を通して商品ブランドの普及・育成を行ないます。一方、企業ブランドの面倒を見るのは持ち株会社や統括会社のCC(コーポレート・コミュニケーション)セクションであり、グローバルにブランドを発展させるために必要なリソースが不足するケースがほとんどです。

ブランド作りの方法論を知っていますか?

さらにもう一つの問題点は、具体的にブランドを育成・管理するにはどうすればいいのかがわかっていないケースが多いことです。例えば、ブランド測定技術の遅れです。「ブランド作りがうまくいっている」「ブランド力で物が売れている」「その国に必要なブランドだと思われている」ことを客観的・体系的に測定する技法を持ち合わせていないのです。

グローバル市場は広く、また製品カテゴリーの多い企業になると対象市場がマトリクスになって扱うのが大変になります。そこで威力を発揮するのが、ブランド力を測定して次の戦略の指針を産み出す「ブランド・オーディット」の仕組みです。これがないと、グローバル・ブランディング推進の大きなボトルネックになってしまいます。普通の消費者調査で主要な管理項目(認知率、使用率、好意度、購入意向、イメージなど)を測定して数字を得るだけではダメです。項目ごとに分析するのではなく、大量のデータを料理して戦略シナリオを描くための体系的なノウハウやシステムを持たなければなりません。

つまり、今実践しているブランド活動がどのようなルートやメカニズムで目的達成に向かって進んでいるのか、どこがうまくいっていて、どこが滞っているのかがはっきり見える、ダイナミックな分析モデルを採用する必要があるのです。先ほど述べたあるグローバル企業の「グローバルブランド・マネジメントチーム」は、ここを熱心に研究していました。日本企業も、こうした武器の開発や外部調達に積極的に取り組むべきだと思います。

日本には、2020年東京オリンピックを成功させるという新たな目標ができました。世界中の人々にニッポンブランドを体験・共有してもらう絶好のチャンスが訪れます。これから7年、ビジネスはもちろん、政治・外交・文化・教育・スポーツの力を結集して丁寧に準備を進めていけば、ニッポンブランドが「世界になくてはならない存在」であることが、必ずわかってもらえると思います。

岡崎 茂生 フロンテッジ ソリューション本部副本部長

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おかざき しげお / Shigeo Okazaki

1981年東京大学教育学部卒業、1989年ピッツバーグ大学経営大学院MBA。1982年電通入社、2006年より北京駐在。北京電通 ブランド・クリエーション・センター本部長を経て、現職。30年におよぶ広告・マーケティング領域での経験をベースに、中国企業をはじめタイ、アメリカ、韓国、日本企業などを対象に幅広くブランド戦略コンサルティングを行なう。アジア各国およびアメリカの大学/大学院でのブランド講座・公開セミナー、フォーラムでのスピーチ、雑誌連載など多数。チュラロンコン大学商学部マーケティング学科客員准教授、南京大学ジャーナリズム&コミュニケーション学院客員教授、湖南大学ジャーナリズム・コミュニケーション&映像芸術学院客員教授。

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