ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領にアメリカのドナルド・トランプ大統領。今、世界を席巻する強権リーダーたちは、男性ホルモン、テストストロンが充塡された、英語でいうところのAlpha male(「オス型」男性)が多いが、とにかく「オレ様自慢」がしたくてたまらないタイプだ。3時間、とうとうと演説を続ける人、上半身裸になって魚釣りをする人、口を開けば、自慢話しかしない人……。
そろいもそろった強権ナルシシスト系リーダーたちの話をしっかりと聞き、プライドを上手にくすぐり、懐に入り込む。これが安倍氏の得意技だ。「日本の首相、安倍晋三は、トランプを手なづけられるかもしれないたった1人のリーダー」。アメリカメディアにはこんな見出しが躍る。
彼の政治思想に対して、懐疑的な海外メディアも少なくはないが、「オレ様系」のリーダーが跋扈(ばっこ)する国際舞台において、上手におだてて、立ち回る「所作」はある意味、貴重で、特異な「プレゼンス」を発揮している。「外に出ていき、日本の声を世界に届けている」(US News)という見方が示すように、これまで「ジャパンパッシング」などと言われ、存在感が希薄化していた日本に再び、グローバルの注目を集めるという点で、安倍流「パフォーマンス」が功を奏している側面はあるだろう。
権力は「共感力」をマヒさせる
麻生太郎副総理兼財務相は衆院選後、講演で、自民党の勝利について「明らかに北朝鮮のおかげもありましょうし、いろんな方々がいろんな意識をお持ちになられた」と発言したが、人々の持つ「恐怖感」が自民党支持を押し上げたフシは否めない。「恐怖は人を保守にする」。これは多くの研究で実証されているが、9.11のあと、リベラル派の間にも共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領を支援する機運が高まったという研究もある。
こうした「不安」の時代にあって、安倍氏の海外での高い「プレゼンス」が、「強い日本」を求める一定の層にアピールしているきらいはあるが、国内の「好感度」という意味では、決して高いわけではない。「信頼できない」と感じる人も多いのは、「強さ」が傲岸さにひもづき、不遜な印象を作ることもあるだろう。
「絶対的権力は絶対に腐敗する」。イギリスの歴史研究家ジョン・アクトンの言葉は有名だが、実際に「権力は人を横柄にする」ことは科学的にも証明されている。カリフォルニア大学バークレー校のダッチャー・ケルトナー教授は長年、行動学の研究を続け、「自分に力があると感じたり、特権的な立場を享受するなど、権力を持った人はそうでない人より無礼で、身勝手、そして非倫理的な行動をとりやすい」(『ハーバード・ビジネス・レビュー』)と結論づけた。
ケルトナー教授によれば、裕福な人ほど、他人の感情などを理解する共感力が下がり、賄賂や脱税など非倫理的な行為が許されると答える確率が高かった。「企業で権力の座についている人は、職場でほかの人の話をさえぎる、会議中にほかの仕事をする、声を荒らげる、人を侮辱するようなことを言うなどの可能性が、下位のポジションにある人の3倍に上った」という研究もある。
まさに、権力は「共感力」をマヒさせる。安倍氏は選挙後、「謙虚に」を繰り返したが、「驕り」の先に待ち受けるわなを意識した言葉なのだろう。大声で自分の主張を押し通そうとする人や身近な人たちの意見だけを代弁するのではなく、国民の「声なき声」に「謙虚に」耳を傾ける。ぜひ、この基本動作を忘れないでいただきたいものだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら