フランス人が驚く、日本の大学の日常風景3つ パリっ子の授業中・ランチのタブーとは?

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フランスでは教師と生徒以外の関係でも、大人と子どもの線引きが明確だ。別のフランスの知人の話では、子どもの頃、親との食事では自分からおしゃべりすることを許されなかった。親から何か質問されたときだけ、話すことができる。また、家に来客があった場合は、子どもは一緒にテーブルを囲むことは許されない。大人同士の会食となれば、食前酒から前菜、メイン、デザートと一通りのメニューを終えるのに、3時間以上もかかる。幼い子どもが退屈せずに座っていることは難しいからという理由もあるだろう。大人たちがごちそうを食べている食堂とは別の場所で、子どもだった知人は普段どおりの食事をしていたという。

確かに、フランスのレストランに行くと、グルメの国だというのに子ども向けメニューは意外なくらい素っ気なかった。鶏肉のローストにフライドポテトとか、ソーセージにフライドポテトといった具合だ。日本のレストランにある、オムライスに小さな旗が立っているような、工夫を凝らしたお子様ランチはない。美食を楽しむのは大人になってから、という考えからだろうか。

「お弁当文化」が薄いフランス

3つ目の驚きは、母親に作ってもらったお弁当を持参する学生が少なくないことだった。フランスの成人年齢は18歳だ。高校を卒業し大学に進学するタイミングで親元を離れる人も多い。友人にしてみれば、「大人なのに、お母さんにお弁当を作ってもらっている」というのは、不思議でたまらないらしい。

幼稚園から高校まで、食堂で給食がとれるフランスでは、学校へお弁当を持参する機会はごく少ない。遠足など限られた機会にだけお弁当が必要だが、バゲットにハムを挟んだサンドイッチなどごく簡単なものだ。手の込んだ日本風のお弁当は、「母親に負担をかけるもの」と女性の目には映る。子育てにおいて自立を重視するフランスで育った女性にとっては、大学生の世話を焼く母親も、それを受け入れている大学生も理解しがたいようだ。

『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット』(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

大学生の子どもにお弁当を作る日本の母親には、「学食で食事するよりも、お弁当のほうが安くあがる」という節約志向もあるだろう。子ども自身にお弁当を作らせたいと思っても、アルバイトやサークル活動で忙しそうだ。作り慣れた自分が作ろう、という発想になるのかもしれない。

そもそも、フランスの大学はほとんどが国立大学で私立大学はごく少ない。そして、国立大学の授業料は無料だ。また、下宿をする学生には住宅補助手当も支給され、外国人留学生も申請することができる。一方、日本の国立大学の授業料は1975年度の年間3万6000円から2017年度は同53万5800円に上昇。その反面、小遣いや仕送りは減少傾向にあるといい、学費や生活費の不足分を補うためにアルバイトをせざるをえない大学生もいる。せっかく大学へ入ったのに、アルバイトで疲れて授業中の居眠りにつながっているとしたら、教育効果が薄れ、学生にとっても社会にとっても大きな損失だ。

フランス人留学生の驚きの裏には、日本の学生が置かれている厳しい経済状況があるのかもしれない。

国末 則子 フリーライター

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くにすえ のりこ / Noriko Kunisue

フリーライター。東洋経済新報社、朝日新聞記者を経てフリーライターになる。2001~2004年、2007~2010年の2度にわたってパリに滞在し、2人の子どもを現地校に通わせた。著書に『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット』(プレジデント社)。
 

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