DVシェルターへの不満を訴える女性は贅沢か 職員も「牢獄のような管理」と葛藤

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夫の身勝手な振る舞いに苦しめられても家庭を壊したくないと願う鈴木さん。決して特殊な例ではないと前出の須藤名誉教授は話す。

「電話相談でも、多くの女性は離婚を望んでいません。この問題は離婚して終わりというほど単純ではありません。しかし支援者側としては離婚していれば法律の適用がしやすく、生活保護や施設入所など、さまざまな支援を行える。婚姻状態にあるとその適用が難しく支援ができない苦しい状況もあるのです」

鈴木さんのケースでは公的シェルターで読んだ本で知った京都府にある支援団体『日本家族再生センター』を頼ることにした。連絡をとり、同センターのシェルターに子どもと一緒に身を寄せた。

2003年設立の同所はこれまで約5500件のDV事案のカウンセリングを行ってきた。

同所に届く相談メールには、シェルターへの不満を訴えるものが多い。

日本家族再生センターのシェルターで入居者が暮らす部屋(写真は男性入居者のもの)

夫と離婚して仕方なく生活保護を受給。仕事がなかなか決まらず、職員から「仕事を早く決めて」となじられる。妊娠中に保護されたが、出産後に子どもが児童相談所に保護され引き離されてしまったなど、悲痛な叫びが多数届く。

同所の味沢道明所長は根本的な解決について、

「離婚したほうがいい場合は確かにある。しかし離婚させてもDVの根本的な解決にはなりません。私は加害者も被害者も双方の話を聞きます。何が問題なのかを明確にし、双方で話し合いをして問題に気づいてもらうのです」

現制度に感じる違和感

同センターでは、複数の加害者や被害者が集まり、会話をするグループワークを催している。交流の中で他人の価値観に触れ、自分の問題に気づいてもらうことが狙いだ。前出の鈴木さんも入所中にはさまざまな価値観に触れた。

「夫が暴力をふるうときの気持ちが理解でき同じ経験をした被害者とも相談できるようになりました。私にも問題があったことがわかりました」

現在は夫も、グループワークに参加している。

「夫も私と同じで虐待のある家庭で育ち、幸せな家庭への理想がとても強かったようです。少しずつ変わってきているように思います。何より、“笑っているパパは好き、でも怒っているパパは嫌い”と子どもに言われるのが一番こたえるみたいで(笑)」

現在は歩いて数分の距離での別居生活だが、週の半分は一緒に過ごしているという。少しずつだが家族という形を成してきているようだ。

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