伊佐山:ひとつめは、日本のベンチャー企業と大企業の間にある壁。次は、日本のベンチャー企業がいまだに国内重視で海外のベンチャー企業を見ていないという壁。最後に、日本の大企業が海外のベンチャー企業を知らなすぎるという壁。これらをサイバーエージェントで新規事業をいくつも立ち上げ、多角化に貢献したナンバー2だった西條をはじめ、多くの人や企業を巻き込んで、それぞれの持っているスキルを掛け合わせながら壊していき、それぞれの間に橋を架けることで、大きな“うねり”を起こしたい。
日本人コミュニティのパワーがなく不利に
西條晋一(以下、西條):私が2010年から丸2年、サイバーエージェントアメリカの社長を務めて感じたのは、シリコンバレーで優秀な人材を確保することの難しさと日本人コミュニティのパワーのなさです。
自らオフィスを構えて事業をすると、まず“人”の問題にぶつかりました。シリコンバレーで優れたエンジニアやプロデューサーを雇おうとしても、周りにはグーグルやフェイスブックをはじめ魅力的な大きな会社はあるし、一方でシリアルアントレプレナー(連続起業家)の作る急成長している会社があって、人がとれない。また、それ以前にシリコンバレーに来ていたDeNAやグリーが豊富な資金力でローカル企業を買収して、マネジメントチームを組成する姿を見て「このやり方はできない」と感じて、少し違うやり方を模索しました。
つまり、プロダクトやサービスは日本で作り、マーケティング機能だけ現地でというやり方をとりました。シリコンバレーでは、エンジニアは年収8万〜10万ドル(800万円〜1000万円)で並クラス。日本は、600万〜700万円でマルチにサーバサイドができ、アプリケーションサイドもできるというエンジニアが雇えるから、すべてをシリコンバレーでやる必要はない。こうしたこともシリコンバレーのことを知らなければできません。「プラグ&プレー」ではないですが、新会社ではシリコンバレーでのビジネスに必要なインフラ(生活環境からビジネスのやり方、人脈の作り方など)を支援することもしていきたい。
もうひとつは、シリコンバレーの日本人コミュニティのパワーのなさです。シリコンバレーは世界中から人が集まっていますが、中国人や韓国人、インド人、ベトナム人といったアジア系のコミュニティの中で日本人がいちばんパワーがない。シリコンバレーに日本のベンチャー企業はほとんどいないし、日本人が圧倒的に少ない。それは、ビジネスチャンスの情報を集めるという点でも、仲間を集めるうえで圧倒的に不利です。このままではいくら優秀な人がシリコンバレーに行っても、人が集められないから厳しい。
伊佐山:日本は、アジアの中では経済大国にもかかわらず、シリコンバレーでは、ベトナム人やマレーシア人などのコミュニティの強さでは負けている。今はまだ間に合うが、これが後10年続くとその差は埋められない。日本の質や技術力の高さへの評価が高いうちにやらないと橋を架けても無駄になってしまうから、今、日本企業や日本人がシリコンバレーに行きやすくすることで、コミュニティを強くすることをしないといけない。
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