日本人が知らないプリンストン強さの秘密 アイコン化した強い組織の研究<5>

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プリンストン大学の庭園を散策するアインシュタインと同僚の湯川、ホイーラー、バーバー

平和、自由、一堂に会する偉大な学者たち――すべてが「魔法の雰囲気」をつくりだしているとダイクラーフは言う。

「たとえば、いまでもオッペンハイマーの秘書が研究所で働いているという事実が、一層魔力を高めています。建物もそうです。アルベルト・アインシュタインの家にその後住んだ科学者は、全員ノーベル賞を受賞しています。一杯の紅茶に対し、必ず3種類のクッキーがついてくるという伝統もです。それに、ゲーデルやオッペンハイマーなど偉人たちの魅力が、いまだに共鳴しているのを感じます」。ここにもまたひとつ、テセウスの船があった。

伝統と革新の逆説的な組み合わせ

『アイコン的組織論ー超一流のコンサルタントたちが説く「能力の好循環」』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

そしてプリンストンにも、アイコンの特徴である伝統と革新の逆説的な組み合わせがある。

「研究所はいつでもリスクを恐れず、物事のやり方を根本的に変えることも辞さずにやってきました」。ダイクラーフは言う。「例えば1940年に、研究所では膨大な費用をかけて世界で初めて、プログラム可能なコンピュータをつくることにしました。そしてオッペンハイマーは、ジョージ・ケナンを教授に指名したのです。彼は科学者でもなかったわけですが、結局はアイコンになりました。こうした歴史と、官僚主義で束縛されない自由から、私たちは科学の世界において最も進歩的な研究所になり、最新のITも取り入れてきました。これは重要なテーマで――プリンストンでは重要な決定はすべてそうですが――ボトムアップで成されています。たとえばここにゲストとして来る6000人の科学者たちを、もっと巻き込む方法を検討しているところです。最新の技術のおかげで可能になったことです。でも世の中が変化しても、私たちの基本理念は変わりません。世の中の動きがどんどん速くなっていっても、完全な学問の自由と、平和と静けさを守ります。私たちのゴールは、究極的には広い科学の領域で、最初の1歩を踏み出していくことです。これまでもそうでしたし、これからもずっとそれを目指していくつもりです」。

いま現在、研究所の様子はどうだろうか。「私がアイコンの度合いを測る重要な尺度は、オファーを出すごく少人数のポスト・ドクターの研究者のうち、どのくらいの人が「イエス」と言ってくれるかです」。ダイクラーフは言った。「去年オファーを受けてくれたのは、95パーセントだったんです。それが今年は、100パーセント受けてもらえました」。

ザビエ・ベカルト、フィリス・ヨンク、ヤン・ラース、フェボ・ウィベンス 『アイコン的組織論』著者

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『アイコン的組織論』(フィルムアート社)著者。ザビエ・べカルトは設立して間もない戦略コンサルティング会社ベントハーストの共同創立者。フィリス・ヨンクはビジネス革新に情熱を持つ戦略コンサルタント。ヤン・ラースは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の奏者兼事務局長。フェボ・ウィベンスはペンシルベニア大学ウォートン校にて戦略についての博士研究を行っている。

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