日本人が知らない「ゴアテックス」強さの秘密 アイコン化した強い組織の研究<3>

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ゴアの経営理念の例を、もうひとつ挙げておく。それは10パーセント・ルールだ。研究者は業務時間のうち、10パーセントを新しいアイデアのために使っていいことになっている。ほとんどの飛躍的な成功は、このプロジェクトから出てきたものだという。ゴアのギターの弦がいい例だ。

弦はPFTE(テフロン)でコーティングされていて、皮膚の油が弦につきにくいため、音質がよい。このアイデアは、あるエンジニアが10パーセントの持ち時間で自分のマウンテン・バイクのケーブルにPFTEコーティングをしてみたことから誕生したという。

ゴアは10パーセント・ルールの先駆けの1社だったが、いまでは同様のシステムを取り入れている会社が増えている。おそらくいちばんよく知られているのはグーグルで、プログラマーに与えられているのは、自分の時間の20パーセントだ。

声の大きい人の意見が通るわけではない

『アイコン的組織論ー超一流のコンサルタントたちが説く「能力の好循環」』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

このような組織では、声の大きい人の意見が通るようになるのではないか、と思われがちだ。「実際には、そういうことは起こりません」。人事のアソシエイト、アン・ギリスは言う。「ある工場の技術専門家は、非常に聡明なのですが、口が重いんです。でも同僚たちは、自分たちのためになるのがわかっているので、彼の協力を取り付けるのには時間がかかることを受け入れています」。

確かに、こういうシステムのなかで全員が自分に合う場所を見つけるとは限らない。新入社員の多くは、最初の1年が終わるころに、たとえばあまり指導を受けていないことに悩むという。だが、そこを過ぎると、その後は長年ゴア社で働く人が多い。同社は多くの従業員アワードも受賞していて、毎年『フォーチュン』誌が掲載する、最も働きやすい企業100社の常連でもある。

このように従業員満足度が高く、しかも財務結果を犠牲にしていないところもすばらしい。それどころかゴアは創業以来、毎年利益を上げていて、直近の20年間では収益は3倍になっている。年間5パーセント以上の堅調な成長率だ。ほとんどの同じ規模の上場企業にとって、このように長期にわたっていい結果を出すのは、夢のような話だろう。

ザビエ・ベカルト、フィリス・ヨンク、ヤン・ラース、フェボ・ウィベンス 『アイコン的組織論』著者

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『アイコン的組織論』(フィルムアート社)著者。ザビエ・べカルトは設立して間もない戦略コンサルティング会社ベントハーストの共同創立者。フィリス・ヨンクはビジネス革新に情熱を持つ戦略コンサルタント。ヤン・ラースは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の奏者兼事務局長。フェボ・ウィベンスはペンシルベニア大学ウォートン校にて戦略についての博士研究を行っている。

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