36歳社長が変身する「かめライダー」の正体 創業60年超えた福岡の自動車教習所が大変貌

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楽しいのはいいが、いちばん気になるのは安全面だ。すると「DON!DON!ドライブ」の導入前後で、合格率が86.9%から6%上がったというデータを見せてくれた。特に女子高生層の合格率は77.8%から20%近くアップした95.7%になっている。

出てくるキャラクターも個性的で教習生の心を引き付ける(写真:南福岡自動車学校 / FOREST Hunting One)

「楽しい内容にすることで学習意欲が高まり、教習効果が上がり、安全運転にもつながる。技能教習が担任制というのも、譲れないこだわりです。

利益を追求するならフリー制が断然いいけれど、担任制にすれば指導員が教習生のことをしっかり理解して教えられるし、いい関係性が生まれる。すると、教習生は卒業したあとも『指導員がダメって言ってた』『指導員を悲しませたくない』と安全運転を心がけるようになるんですよね」(江上社長)。

交通安全のヒーローが経営改革のヒーローになった

現在、ミナミは教習所の枠を超え、教育を核に新たなビジネスを展開している。たとえば、「DON!DON!ドライブ」のコンテンツ提供を告知すると、すでに20社以上から引き合いがあり導入を始めた。また、これから需要が高まるカンボジアに教習所を設立し、ベトナムの教習所とも資本提携している。ほかにも、年間3000人の若者が集まる利点を生かし、人材不足に悩む地元企業と学生をつなぐマッチングサービスなど、新たな収益モデルを次々と打ち出した。

「正直にいうと、福岡に戻ってきたとき、地方の中小企業にいい人材はあまりいないと予想していました。でも、うちの社員はそれぞれに才能があり、適性を見極めてリーダーなどを任せると、非常に素晴らしい発想や行動力で仕事を進めてくれる。社員が輝いていく姿を見るのが、とてもうれしいんですよね。結果として、それが業績に結びついています。

もし免許が要らない時代が来ても、愛あるおせっかいができるうちの社員は、どこでも通用します」と胸を張る。会長を務める父については「30歳の私に会社を継承してくれた器の大きさはすごいし、感謝しています」と江上さんはしみじみ語る。

「いろんなことがあったけど、今は全部ひっくるめて楽しい」と笑顔を見せる江上さん。取材が終わると、黄緑のヘルメットと全身スーツを小脇に抱えて、さっそうと車で出動していった。安全運転のヒーローは、いまや経営改革のヒーローとなり、元気を振りまき挑戦を続けている。

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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