上司は、「部下への伝え方」を間違うと最悪だ 意思・方針の伝え方には3つの原則がある

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社長や上司は、ともすると、前に1度よく話をしたのだからもういいだろうとか、自分の思いをペーパーにして、加えて、冊子にして配布しているから、伝わっているだろうと考えがちですが、もしそう考えるとするならば、よほど自分の話、冊子に自信のある、というより自信過剰な傲慢な考えだと思います。誰でもそうですが、そのときは真剣に聞いていても、時間が経てばしだいに薄れ、忘れていくものです。もともと「人間は忘れる動物」だからです。

社員や部下に社長や上司が自分の意思を伝え徹底することは、あるいは「夏の芝生の雑草取りの作業」と似ているかもしれません。芝生の雑草は、取ればまたすぐに生えてくる。それを取ってもしばらくするとまた生えてくる。1度取ればもう生えてこないというものではありません。

社長や上司が自分の方針や思いを伝えるのも同じことで、根気といえば根気、まことに根気がいりますが、その根気がないと社長なり上司の考えや思い、方針・理念は社内に、部内に浸透せず、人材も育っていくということはないのではないかと思います。また、その繰り返し話をすることによって、言い間違いや聞き間違いを修正することも可能になるのです。

その繰り返しの根気の作業の積み重ねによって、意思伝達が確実に正確に行われるということになるのです。

“なぜ”を説明する

3つ目に、社長なり上司が心得ておくべきことは、「“なぜ”を説明すること」です。「自分の考えはこうだ」「会社の理念はこれだ」「こうしてほしい」とだけしか言わなければ、「わかっているよ」で終わってしまいます。それでは、意思伝達が十分になるということはない。社長なり上司の思いが、社員や部下に伝わるということは、たぶん、不可能でしょう。1000%の思いを込めて話し、繰り返し訴えても、なぜ、このようなことを自分は皆さんに訴え話しているのかという説明をしなければ、臥竜点睛を欠くということになります。

“なぜ”を説明することによって、社員は「なるほど、そのような理由なのか」「そういうことであれば、一生懸命、仕事に取り組もう」ということになります。わけもわからず、理念を話され、方針を説明されても、「聞き置きます」で終わってしまうでしょう。

もちろん、ほかにもいろいろなコツがあると考えられますが、少なくとも「1000%の思い、願いを込めて話し訴える」「繰り返し、話し訴える」「“なぜ”を説明し、話し訴える」は欠かすことができません。上司たるもの、まずはこの3点を心掛けるべきです。

この3点を実行することなく、「うちの社員は出来が悪い」「俺の部下はレベルが低い」などと言ってはいけません。それはとりもなおさず手抜きのためであり、最悪の社長、上司だと自覚すべきでしょう。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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