「生産性向上を現場に丸投げ」する会社の末路 それでは、電気は消えても仕事は消えない

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私は多くの企業に働き方改革や生産性向上というテーマで呼ばれる中で、初めにお話しさせていただくのが、「誰の」もしくは「何の」生産性を向上させたいのか、つまり生産性の「主語は何なのか」ということです。

実際に導入を検討されている施策を見てみると、オフィスツールを活用してのスキル向上や、テレワークによる柔軟なワークスタイルの導入など、生産性の主語は「個人」であることがほとんどです。

個人の生産性を目いっぱい向上させたとしても、組織の生産性が変わらなければ劇的な改善にはつながらないばかりか、個人が疲弊して閉塞感が漂うのは目に見えています。組織と個人の両輪での生産性を問わなければ、日本の命運を懸けたこの取り組みが徒労に終わりかねないというのが、私が感じる危機感です。

日本人がサービスに求めるものは「真心」?

ここであるデータをご紹介しましょう。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナルによる「世界9市場で聞く顧客サービスの意識調査」を見ると、「購入先の変更を考える前に何回までならひどい顧客サービスを我慢できるか」との問いに、「一度でもひどいサービスを受けたら直ちに変える」と答えた日本人は56%、ほかの国はみな20%から30%の中、断トツです。

さらに、受けているサービスに対する満足度を見ると、「期待を上回る」と「期待どおり」を合わせても45%と半数を割り、群を抜いて低い満足度です。お客様は神様と唱えてきた結果は、はたして本当にバランスがとれているのでしょうか?

さらに複雑な心境になるデータが続きます。サービス担当者に求める態度として、他国は総じて「効率がよいこと」であるのに対し、日本だけは「礼儀正しい」が最も重要視されています。効率であれば、競合や金額に対してどれくらいのサービスレベルが妥当なのかが見えてきますが、礼儀正しさとなると明確な指標が難しく、真心込めて丁寧に……という思いが過剰サービスにつながっていくのではないでしょうか。

実際に、営業部門のトップやエースと呼ばれるハイパフォーマーの方に話を伺ってみると、「営業の成功要因は顧客と緊密な関係を築き上げ、要望に対して絶対に”ノー”と言わないこと」とおっしゃる企業が多く、前述のデータを裏付けています。もしくは「”ノー”と言ったら、仕事は取れないし、失注の責任は自分が負うことになるから基本何でも受けざるをえない」というあきらめとも取れる言い方もよく聞かれます。

このように企業に仕事が入ってくる入り口のところで、際限のないニーズに応えることが是とされていては、その後個人レベルでいくら生産性高く高速処理をしたとしても、大きな生産性向上は見込めません。働き方改革は、組織としての顧客への提供価値の改革でもあるのです。

では、働き方改革プロジェクトに関与することになったとして、組織レベルでの生産性を向上させるにはどんな提言をすればいいのでしょうか。当然ながら一筋縄でいくものではありませんが、個人と組織の両面での生産性向上をまずは提案すべきです。

個人の生産性向上はタイムマネジメントや業務改善、スキル向上などたくさんの有効な施策がありますので本記事では割愛しますが、組織の生産性向上としては、事業全体、特に顧客との関係性の見直しを検討の俎上に載せることは重要課題として認識すべきです。

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