それにしても、来るべき総選挙の「争点」が見えにくい。
安倍政権の半ば官報ともいうべき読売新聞の報道を読むと、与党側は、消費税の増税分を財政再建に充てるのではなく、教育費・育児支援などに使う、「増税分の使途変更」を前面に出そうとしているらしい。
一方、前原誠司新代表が率いる民進党も、消費税率を引き上げることを前提として、これを社会保障的な支出の拡大に充てることを主張しており、はっきり言って両者の区別は難しい。有権者としては、気乗りのしない、「食えない選挙」だ。
消費税率2%の増税分は約5兆円になるが、これが財政再建に回ると総需要の減少につながるので、デフレ脱却のためには、何らかの支出拡大が行われて需要がサポートされることが望ましい。それが、教育や介護に回るのであっても支出が十分拡大されるのなら、増税の悪影響は相殺される理屈ではある。
しかし、増税が直ちに消費者に響き、一方、さまざまな支出の決定と実行が官僚組織に任されて時間的に遅れることや、財務省による予算の削り込みなどがあることを考えると、「消費増税分を財政再建に充てない」という政治家の声の信頼度には、相当に大きな「割引」が必要だろう。
「リカレント教育」が中途半端にならないためには?
ところで、政府は「人生100年時代構想会議」なるものを立ち上げて、長寿時代への対応をテーマにしようとしている。9月11日(月)には、話題作『ライフ・シフト』(東洋経済新報社)著者であるリンダ・グラットン氏などを委員に招いて第1回の会合を開いた。同会議のホームページで、グラットン氏のプレゼンテーション資料を見ると、2007年に生まれた日本人の平均寿命は107歳になるのではないかという試算が載っていた。
長寿化自体は結構なことだし、個人も社会もそのための準備が必要だ。政府関係者の資料を見ると、キーワードは「リカレント教育」らしい。社会人なども対象とした生涯学習のことを指すが、社会人向けの大学・大学院の充実など、高等教育の拡大に力を入れようとしているように見える。
教育投資の費用対効果でいうと、幼少期の教育のほうが、高等教育よりも費用対効果が高いという意見が一般的であり、優先度にはやや疑問があるが、教育に費用をかけるのは社会としてはいいことだろう。
ただ、今の大学の教師や教育内容をそのままに、社会人向けに間口を広げても、公費補助付きのカルチャーセンターのような中途半端なものが出来上がりそうだ。消費税の増税分が、そのようなものに使われるのだとすると、少々冴えない展開である。法科大学院の多くが廃校に向かう中、司法試験予備校が気を吐いているように、教育も補助金付きではない、民間の活力に任せたらいいのではないかと思う次第だ。
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