その職は金融規制改革法(ドッド・フランク法)によって新設されたものだが、これまで誰も就任していない。クオールズ氏の指名については、相当厳しい審議を経て、9月7日、上院銀行委員会で承認され、あとは上院本会議の承認を待つばかり。いよいよFRB初の銀行監督担当副議長が初めて誕生する。
クオールズ氏はウォール街の弁護士時代、筆者が働いていた弁護士事務所と同じビルの別の階にある、別の事務所で働いていた。エレベーターでよく見掛けたものだ。当時は銀行と証券を分離していた「グラス・スティーガル法」が生きていた時代だった。筆者は巨大銀行側の仕事に専念していたが、彼はどちらかといえば、証券(インベストメントバンク)寄りの立ち位置だった。
その後、ウォール街からワシントンに本拠を移すようになり、ブッシュ(ジュニア)政権下で財務次官を務めた。財務省を去ってからはカーライル・グループに参画。もともと金融制度に精通しており、トランプ政権下で金融規制緩和など重要政策を担うことになった。
クオールズ氏は名門の一族でもある。夫人は有名なエクルズ一族の一員だ。エクルズ一族といえば、マリナー・エクルズ氏の名は知る人ぞ知る。同氏はフランクリン・ルーズベルト元大統領の「ニューディール」時代、1934~1948年までFRB議長を務めた超大物だ。その名はワシントンのFRB本部ビルに刻されている。通称「エクルズビル」と呼ばれ、米国の金融関係者で知らない人はいない。
そうした名門出身かつ金融制度改革に影響力のある人物を、初のFRB銀行監督担当副議長に任命したことは、トランプ政権がこれから進めようとしている、金融規制緩和を加速する方向に働くことを意味する。
イエレンFRB議長再任の可能性が急浮上
クオールズ氏が、新たにFRB副議長に就任すると、スタンレー・フィッシャー副議長と2人体制となるはずだった。ところが、フィッシャー氏は、9月6日、突然辞意を表明した。副議長としての任期は来年6月まである。辞任は個人的な理由と説明されているが、かねてから共和党が進めようとしている金融規制緩和に対して批判的だったことから、間接的にトランプ大統領からの肩たたきがあったのではないかと憶測されている。
フィッシャー氏の辞任によってFRB体制はどうなるのか。ジャネット・イエレン議長の任期は来年2月までだが、彼女は任期をまっとうする考えであり、フィッシャー氏に続いて辞任するとは考えられない。むしろ再任する可能性が高まっている。
次期FRB議長の有力候補の一人としては、ゲリー・コーンNEC(国家経済会議)委員長の名が上がっていた。トランプ大統領もコーン氏を候補者の一人として明言していた。しかし、ここへきて2人の関係がぎくしゃくし、候補者から外される見通しだ。
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