日本で「お節介な注意放送」が流れる根本理由 「日本人のマナーが悪いから」が理由ではない

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当時、あらゆる書店には、何ごとかと思われるほど「日本人論」がうず高く積まれていて、「欧米には皆無なのに」という歎息が発せられ、その理由は、我が国民の幼稚制や、「お上」に盲従する封建制にある、という恐ろしいほど定型的な結論に向っていた。

当時は、日本人とりわけ日本企業の集団主義が嘲笑の的であり、そのダサい「ドブネズミルック」に身を包んだ、背の低いおたおた歩く猛烈にカッコ悪い日本のサラリーマンが、お辞儀を繰り返しながら、狡賢く立ち回って、カネだけを儲けているという悪いイメージが固定化していました。

ウィーンの大衆紙は、見開きで「日本の会社員は、ウサギ小屋のような粗悪な家に住んで、地獄のような満員電車に揺られて、へとへとになりながら、カネを儲けている。妻子はそっちのけで会社に尽くし、そのうえこれまた地獄のような受験地獄、すべての人は疲弊し人間性を失い、ただただ物質だけを追い求めている・・・・・・」という記事で埋め尽くされていた。さらに「日本の教育は受験地獄のために崩壊し、生徒たちはやり場のない不満を先生に向け、女教師たちは強姦されるのではないかと日々怯えている」という記事まで出る始末。

ウィーン大学でも、教授が、「日本の会社では、朝みんなで体操をするんだね」と揶揄、教室中が笑いに包まれました。私が日本のことを発表するよう言われて、「日本はいまや平均寿命は世界一だ」と言うと、「公害で抵抗力がついたんだろう!」というヤジが飛び、質問はと言うと「公害で寿司屋がみなつぶれたというのは本当か?」とか「子供たちが、通学の時に防毒マスクをかぶっているというのは本当か」といういじわるなものばかり。

欧米崇拝型知識人の「日本人バッシング」に辟易

そして、帰国してみると、先に言ったように、ヨーロッパで日本人がかくも嫌われているのは、日本人がマナーをわきまえていないから、という欧米崇拝型知識人のお小言ばかりで、うんざりしました。「若い日本女性がルイ・ヴィトンのバッグに向かって雪崩のように押し寄せるので、パリでは店員が怒りのあまり投げ与えた」という記事を掲載したのちに、日本人に反省を求めるものばかり。どう考えてもパリの店員こそ「反省すべきだ」と思いましたが。

若い方々は知っていますか? 当時、少なからぬ欧米崇拝型知識人が、いじめは日本にしかなく、欧米にはまったくない、と宣告していたことを。信じられない話ですが、まさに「そう」だったのです。そして、日本でいじめられた子供がアメリカに行って、どんなに救われたかという本(『たった一つの青い空』大沢周子、文藝春秋)とか、欧米からの帰国子女がいかにいじめられるかという本(『帰国子女』宮智宗七、中公新書)ばかりが刊行され(前者はNHKテレビ番組にもなりました)、当然あると思われる欧米諸国でのいじめに苦しむ日本人の実情はまったくと言っていいほど、伝えられなかった。こう確信できるのは、同じころ『海外子女教育事情』(カニングハム久子、新潮選書)という本が出版されて注目されたからです。

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