「読む人の心が痛む」漫画を描く男の激情人生 人気作は「20年間の引きこもり」から生まれた

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当時『ザ・ワールド・イズ・マイン』を連載していた『ヤングサンデー』は『殺し屋1』(山本英夫)など、暴力的だったり、エロチックだったりする、クセのある漫画が人気を博していた。それらが対象になったのだ。

4年にわたる連載は打ち切りになった。貯金通帳を見ると、7万円しか残高がなかった。

「俺は人物を描いても下手くそなので、これで原稿料もらうのは申し訳ないと思う。その代わりに背景をいっぱい入れている。そうしたら、原稿料に見合う原稿になるだろうと思ってね」

背景を描くのは基本的にはアシスタントだ。背景をたくさん入れたら、当然アシスタント代がかかる。原稿料内ではおさまらず、赤字になった。赤字分は印税で取り戻したいところだが、単行本もそれほどは売れなかった。

「今までの連載を振り返ると、『SCATTER -あなたがここにいてほしい-』を除いて、全部打ち切りだったね。ただ、カネがなくなって、生活できなくなったらどうしよう……とはあまり思わなかった。かみさんも漫画家で、共働きだったからすぐに食えなくなることはないだろうと楽観的に思っていた。むしろ制作の資金がなくなることで、漫画を続けられなくなったらどうしよう、というのが心配だった」

「カネを稼いでいる人が勝利者」という考え方は嫌い

新井さんは1つの動機として「カネを稼ぐために漫画を描く人」は正しいと思うが、「カネを稼いでいる人が勝利者」、という考え方は大嫌いだという。

テレビで流れる「金持ちの豪邸拝見」のような番組。家具も、絵も、本当は興味のないものばっかり置いてるんじゃないか。金持ちになったらこういう物を買うんだって刷り込まれたことをやってるだけじゃないか。それが人生の勝利者なのか。

引きこもって漫画を描いている時は、わざとむかつくテレビを流しっぱなしにして、腹に怒りをためて、原稿に吐き出した。漫画だけを描いている生活も楽しかったが、作品の感想をほとんど聞かないので、どんどん自信がなくなっていく。そして、どんどん人間が嫌いになっていった。

「20年も引きこもっているとだんだん思想が『人間どもめ!!』って感じになってきた。これはまずいなと。このままだと登場する人物を全部ブチ殺すことになっちゃうよって(笑)。それで、外に出ようってなった。

あと外に出た理由をあげるとしたら、今世の中はだんだん悪くなっていて、そのしわ寄せが若い子たちにいってる。そのことについて描きたかったけれど、頭の中にある抽象的な若い子に向けてでは真剣になれなかった。

だったら、リアルな若い子と知り合いになれば『あの子が不幸になるんだ』と具体的に思えて、自分ごとになれるだろうと思った……でもなにより、“寂しかったから”というのがシンプルな理由かもしれないね」

新井さんは20年ぶりに外に出た。

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