「読む人の心が痛む」漫画を描く男の激情人生

人気作は「20年間の引きこもり」から生まれた

企業に飛び込みで売り込みをした時には、

「おたくのセールスポイントはなんですか?」

と聞かれて、

「ん~。ないですねえ」

と素直に答えた。

この時はなぜか契約を取れたのだが、つくづく営業は向いてないなと思った。

そんな折、学生時代から付き合ってきた彼女に、

「君は変わった」

と言われた。仕事がつまらないとか、愚痴しか言わない、となじられた。

そして、その直後にこっぴどく振られた。23歳の新井青年は、ボロボロになった。そしてそのまま会社を辞めた。

彼女に振られて、漫画を描き始める

いかにも漫画家らしい雑然としたスタジオの中に座る新井さん(写真:筆者撮影)

「なんで愚痴ばっかり言うかというと、ちゃんと自分の仕事をしてないからだ、と気づいた。もう『できないからやらない』なんて言ってる場合じゃない。もう漫画を描くしかなかった。彼女に振られて、漫画を描き始めるなんて、かっこ悪すぎるけど、それでもいいやって思った」

基礎的な知識もなかったので、小学校の時に買った漫画入門を引っ張り出して参考にした。それから実家に引きこもって、ひたすらに漫画を描き続けた。

「ラッキーなことに、その夏に描いた作品が『モーニング』(講談社)のちばてつや賞で入選がもらえた。なんとか引っかかるんだって。そして次の春に『アフタヌーン』(講談社)の四季賞の大賞が取れてデビューできた」

大賞は取ったものの、それまでアシスタント経験もなかったから、連載の取り方はわからなかった。

「みんな読み切りを描いて、そこに登場するキャラクターを活かして企画を立てて連載を取るのね。そんなの知らなかったからいつも最後には主人公を殺してた。『この物語は俺が終わらせるんだ!!』って(笑)」

初めての連載が決まった時も、喜びよりも、「この読み切りの設定で、月1回の連載を続けるのはキツイな……」と思った。

次ページ藤島康介さんのスタジオにアシスタントとして入ることに
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